11月21日はカレー記念日

カレー記念日

普段着と 仕事着 それしか ありません

11月21日はカレー記念日

月亭つまみ

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カレー記念日とは?

加齢を実感したら、それはカレー記念日。
抗ったり笑い飛ばしたりしながら、毎日華麗に加齢していきましょう。

あなたのカレー記念日も、教えてください。
五七五七七形式で、下の句は「○月○日はカレー記念日」なので
上の句の五七五だけ送ってね!

日付は掲載日に変えさせていただきます。

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なんかすごい。

新年ろくでもない話

みなさん明けましておめでとうございます。

と書いてみて、元旦なんて遠く昔のような気がしているのですがじっさいは3週間も経っていないのですね。そういやまだ1月だった。びっくりだ。

 

12月の「なんかすごい。」、年納めだというのにお休みをいただいてしまいました。なにをしていたかというと、その年2度目の葬式のためにオットの国に行っていた。

今回誰が死んだか、そしてどのような葬式であったかということを書いていきたいと思います。2回分、と思ったのかどうなのか、ものすごく長い。

新年早々葬式話というのもほんとうにどうかと思うのですが、今年もTPOをわきまえない「なんかすごい。」をどうぞよろしくお願いします。

 

 

今回の知らせは、オットがいつも仕事帰りにおくって寄越すメールでもたらされた。
「今から帰る。母から電話来た。Dは入院中。すぐね!」
と書いてあった。
「ええ?!」と返信すると、
「うん、集中治療室だって。もうすぐ中野♡」と返ってきた。
このような重大事をいつものメールに差し挟んでこないでほしい。

 
とはいえ、実のところこの第一報の段階では、私たちはまだそんなに心配をしていなかった。

Dは、オットの弟だ。デジャヴかと思われるでしょうがオットには弟が2人いて、上の弟は4月末に心臓発作で亡くなったT、下の弟がDである。
Tの死について書いたときにちょっと触れたけれど、Dは長いことアルコール依存症をやっていて、とりわけこの5年ほどはめちゃくちゃでほんとうに大変だった。

 
Dは私が今まで出会ったなかでも、確実に片手の指に入るくらい愛すべき人間で、私たちはとても気が合った。でも、お酒を飲むと、何もかもがどうしようもないくらいダメだった。
この数年はアルコールのせいでずいぶん脳が萎縮して、心も体ももう取り返しがつかないところまでいってしまっていた。

救急車で運ばれたことも、入院したことも1度や2度ではない。前回入院したときも、もちろんイギリスのNHS(国民皆保険制度。イギリスでは医療が原則無料。)が入院の措置をとったくらいだから重篤ではあったのだろうが、病床から何度も義母にたのみごとをし、病人風をふかせ(じっさい病人だけど)、この入院がアル中の自分をいったん免罪化するとでもいうようだった。
日本にいる私たちにも何度も電話をかけてきて、そのくせ具体的な病状や治療のことを尋ねると、意味もなくはぐらかすということばかりしていた。

 

だから、なんとなく今回も、そうやってどうせ帰ってくると思っていた。だって2日前に電話で話したばかりだし。帰ってきたら、きっとひどくむかつくだろうな。

ところが、義母からもたらされるDの状態は悪化の一途をたどり、連絡を受けて3日後には、オットは向こうの病院で、Dの臨終に立ち会っていた。
直接の死因、肝炎に誘発された多臓器不全。

 

 私はその知らせを日本で聞いて、電話口で思わず大泣きしたが、同時に「なんで今年なんだよ」とDに対して怒りのような気持ちを持った。
このあいだTが亡くなったばっかりで、義母やTのパートナーのJはどうなっちゃうんだ。あんた何考えてんだ、と。
そしてすぐさま、「何考えてんだ」はわたしだよ、と思う。

今回のことが、最後までやめられなかった飲酒が原因となったのは明らかで、もしDが飲むのをやめ、治療とリハビリをはじめていたら、少なくともその死はもっと遅く、穏やかなものになったかもしれない。でも、だからといって、私は死がコントロールできるものとでも思っていたのだろうか。ばかばかしい話だ。
なにより、「なんで今年」ということは、もっと後ならいいのか。「死ぬこと」じたいはしかたがない。そういうふうに思っていたのだろうか。

そう思っていたのかもしれない。

近い将来いつか、そういう連絡がくるかもしれないよね、と、オットと話したことがあった。それが、病状悪化なのか、泥酔による事故なのか、衝動的な自死なのか、そのときがくるまでわからないけれど。
そして、連絡はきてしまった。思ったよりもずっと早く。
でも、めちゃくちゃになった義母の生活も、私たちのサポートも、もう限界だったということも、一方では確かなのだった。

 

 

葬儀の日取りが決まったので、私も飛行機をとって向かう。手続きや移動にかんしては、前回の記憶からやや手慣れた感のある自分がいやになるが、現実には役に立つ。

Dは意外というかやっぱりというか、わりと信心深いひとだったので、葬儀はカトリック式でおこなうことになった。
式をうけもつ教区の神父はファーザー・グレイシアといって、一年くらいまえに赴任してきたが、教会のありかたや祭事の方法などをめぐって、何かと話題の人物だということだった。
オットの家はカトリックだけれど、義母は教会との付き合いはずいぶん前にやめている。Dも、教区の教会とは別に気に入っている場所があって、そっちにばかり通っていたから、今までファーザー・グレイシアとは面識がなかった。

 
今回、葬儀の段取りを決めるのに、はじめてうわさのファーザーと会うことになった。
義母と、Dの別居している妻のKと、オットと私で、約束の時間に教会を訪ねる。
通された執務室に遅れて入ってきたファーザーは、恰幅のいい偉丈夫で、フレンドリーかつ、威厳と神秘的雰囲気を醸し出したい風の人だった。(←先入観ありきな私)
もうせん執務室には白いテリアの先客(ファーザーの犬)がいて、客用のイスにねそべっており、ファーザーが彼女をどかす形で私たちに着席をすすめたために、居場所がなくなってうろうろしたあげく、不満を表明してわんわんとさわいだ。

すると、ファーザーは、ぴたりと話をやめ、決然と立ち上がって、
「リリー!(←犬の名前)What’s this nonsense!」
と犬に向かって一喝した。 

 ひいいッとなる私たち。

ファーザーは憤懣やるかたないといった様子でもう一度「リリー!」と短く叫ぶと、「あちらの部屋にいっているんだ!」とリリーを隣の部屋にやってしまい、
「彼女はふだんあんなじゃないんだが…」
と頭をふりながら戻ってきてふたたび着席すると、何事もなかったかのように「さて」と話を続けたのだった。

まるで映画にでてくる寄宿舎学校の寮監みたいだ。「ナンセンス!」だって!犬なのに!!

 

そのとき、正面にすわっていた義母は貞節かつ絶妙な流し目を私たちに送って寄越し、Kと私ははす向かいで、お互い目をわずかながら見開きあうという形で「ひええ」の意思をかわしあった。

 その後打ち合わせはなごやかに進んだが、中盤DとKの出会いの話になったときに、(この会合には、葬儀の打ち合わせだけでなく、神父と自分の気持ちや故人のことについて話をする、という意味もあったらしい。どうりで家族全員で行くことになっていたわけだった。)Kが、「15のときに、友人が計画したブラインド・デートで会ったんです。」と言ったところ、ファーザーはやおら「おやおやおや!」と相好を崩し、「頬が赤くなってしまうよ。まさかその後パブに行っただなんて言わないだろうね!」とやや芝居じみた口調で言った。
そこで我々はファーザーに敬意と共感を表しつつ、一方でふたたびまばたきの回数を増やす等の方法で、「おいおいおいおい…」と会話しあうことになったのだった。

 

一時間ほどで教会を辞して、家に戻るとひとしきりその話になった。
そこでもうひとつ物議を醸したのが、ファーザーが義母に話しかけるさいに“Darling”(ダーリン)という呼称をつかった、ということだった。
“Darling”じたいはぜんぜんめずらしいものではなく、イギリスでは男女の別なく、たとえばスーパーのレジのおばちゃん(初対面)が私に対して「Hello, Darling!」などと言ったりする。
でも、ファーザーが義母(だけ)にその言葉を使ったということには、オットも義母自身も「ん?」と感じたらしく、その違和感について、
「今まで意識してなかったけど、ふつう“Darling”って呼び方は、同等の相手にしか使わないかも」
と後で分析していた。

つまり、教区の神父であるファーザー・グレイシアにたいして、義母が“Darling”とよびかけることはできない。にもかかわらずファーザーが教区民でかつ女性である義母に“Darling”とよびかけるのは、「侮蔑」にあたるということである。

ちょっとおもしろいな、と思ったのは、「今まで意識してなかったけど」の部分で、言われてはじめて違和感がまず先にきて、その後で言葉の社会的機能に気が付いたというところだった。
そしておそらくファーザーはその「違和感」に気付いていない。しかし、悪気がないから、親愛の気持ちがあるから「侮蔑」ではないということにはならない、当然だけど。

 

ファーザーは元は英国国教会の司祭で、英国国教会が女性の主教をみとめるようになったので、それに反発してカトリックに改宗したのだということだった。
まじかよ。そんなんありなのか。
というか「じゃあうちおいで」って言っちゃうカトリックも相当どうかしてるんじゃ…。

義母は、ファーザーについて、
「つまり、woman hater(女嫌い)ってことよ。」
と言っていたけど、えっとカトリックの人にそれを言われてもな…と思わなくもない。

 
しかしあにはからんや(だから先入観…)ファーザーは意外と柔軟で、式のあいだにDの好きだった曲を流したい、などのこちらの希望もすべてこころよく聞いてくれたし、義母の多くを語らない話から、Dがなんらかの問題をかかえていたことは窺い知れたにちがいないが、ただ聞くことだけに徹してくれた。

「まあ、(彼は)おおむねだいじょうぶだったじゃない?」
というのが、私たちの消極的ではあるが一致した意見だった。
たぶんロマンチックな人なんだと思う。いろんな意味で。
ロマンチックといえば、Dも相当なものだったけれど、なんというか、ファーザーとDとは合いそうもない。

 

そのかわりといってはなんだが、Dが好きでよく通っていた教会に付属する修道院に印刷工房があることがわかったので、そこに葬儀のパンフレットを頼むことにした。

印刷工房は、そこに暮らす修道女たちがあきなっているのだが、彼女たちは基本的に外に出ないので、しごとを頼むときは、メールで原稿や写真を送るか、指定の時間に会いにいく。
指定の時間というのは、彼女たちの祈りの日課の、すきまの時間という意味だ。

今回は写真のデジタルデータがなかったことと、直接話したほうが伝わりやすい相談ごとがあったので、オットが直接会いに行った。
打ち合わせはなんと柵越しで、シスター・レティシアという初老の修道女がやってきて対応してくれたそうだ。

しごとを実際にするのも彼女で、ちょちょいのちょいとパソコン(ワード)でやる。
オットが、表紙に使うDの写真の、頭のはしの部分がちょっと欠けているのを修正できるかどうか聞いたところ、もちろん、と即答したうえ、
「こういう作業があるとけっこう楽しいものなの。うふふ。」と言いかけて、
「あら!いいえ、楽しいってそういう意味じゃないのよ、ごめんなさい。」と恥じらっていたのがすごくかわいかったそうだ。萌える…。

シスター・レティシアの仕事は確実かつ迅速で、しかも出来上がり予定日の朝に「今日ちょうどそちらの家の前を通りますから、14時15分に。」と電話をくれて、ほんとうに14時15分に届けてくれた。

ドアをあけると、車に3人の修道女が乗っていて、後部座席のシスター・レティシアが完成品を渡してくれた。運転席のシスター・アガサはDのことをおぼえていると、おくやみを言ってくれた。
3人は隣町の病院に検診にいくところだということだった。
「こういうときじゃないと私たち外にでないのよ。」と、ちょっとうきうきした様子で、「ねっ。」と3人で頷きあうと、車を発進させて行ってしまった。
かッ可愛すぎる…。

彼女らが去った後、オットが
「あのひとたち、夜になると枕なげとかしてんじゃないかな…。」
とつぶやき、それがあまりにもドンピシャすぎたのでおなかがよじれるほど笑った。

 

Dは、どういう気持ちでこの教会にきていたのかな、と思う。
2年前のクリスマスの夜に、Dに誘われてここの真夜中ミサにきたことがあった。
ここの修道院の祈りは歌なので、教会堂のどこか見えない場所から降りそそぐように聞こえる賛美歌と、ろうそくのひかりと、炊き込めたお香の香りが、陶然となるくらい美しかった。
この空間全体が、ひとつの巨大な装置なのだな、と冷静に思いつつ、信者でもないのにうっかり「神様、おろかな私たちをどうかお救いください。」と祈りたくなる自分がいた。

ミサのあとDは、知り合いや顔なじみの修道女たちとあいさつをかわし、軽口をたたき、そういう姿は以前のままのDだった。でも、教会を出て歩き出すと、Dが片時も離さないショルダーバッグの中からは、ドプンドプンとボトルに入った液体ようの音が夜道に響くのだった。

「D、何の音?」
とオットが聞くと、Dは、「ん?ああ、コロンだよ。」と平然と答えたが、そんなばかでかい音がするコロンのボトルがあるか。絶対嘘だと思った。
でも、クリスマスの夜に、ミサの帰り道に、それ以上詰問することができなかった。

Dは、天国に行きたいと思っていただろうか。と思うと、どこか違うような気がする。
許されたいと思ってはいただろう。でも、それが神様に、かどうかはわからない。

 

葬儀の日は、寒いうえに霧となっていた天気予報は大きく外れて、12月とは思えないくらい晴れてうららかな一日となった。

Dは人生のほとんどをこの島で過ごし、友人が多かった。
多くの参列者がやってきて、そのなかには南アフリカから飛んできたという、彼の元彼女という人の姿もあった。(ちなみに参列した「元彼女」は彼女だけではない。)
ファーザー・グレイシアはとどこおりなく式を遂行し、最後はDがもうせんから自分の葬式にはこれを流してほしい、と言っていたプリンス・バスターの“Enjoy Yourself”を流してみんなで退場した。
自分の葬儀の曲を決めておくなんて、ほんとうにDらしいというか、自意識過剰で腹が立つ。だいたい、Dがこんなに早い自分の死を予期していたかどうかはあやしいものだ。
でも、くやしいけれどほんとうに選曲はさいこうで、おそらくDの思惑どおり、最後の最後に皆を涙と笑いの渦にたたきこんだ。

こうやって、美しい思い出になっていくのか。ひどい最後だったのに。
そして確実なことは、死んだひとは、自分の葬儀を見ることはできない。

 

 

byはらぷ

 

 

※「なんかすごい。」は、毎月第3木曜の更新です。はらぷさんのブログはこちら

※はらぷさんが、お祖父さんの作ったものをアップするTwitterのアカウントはこちら。

 

 

 


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コメント、ありがとー!

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    パプリカ

    はらぷさま

    こんにちは。
    ろくでもないおはなし、(全然ろくでもないお話ではありません)
    じ〜んときました。

    それでも人生は続くから
    Dさんのメッセージ
    そのまま受け取りましょう

    人生を楽しんで🍀🍀🍀

    Tちゃんとスマちゃんと御主人さまとね。

    はらぷさんの今回のお話は
    須賀敦子さんの[コルシカ書店の仲間たち]を想起しました。

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    はらぷ Post author

    パプリカさん、こんばんは!

    コメントありがとうございます。
    そうなんですよね。人生はそれでも続いていて、おなかもすくし、一晩寝るごとに、いやでも少しずつ忘れていってしまいます。

    あの歌を聞きながら退場するときに、私の後ろを歩いてた人(Dの友人)が、サビのとこで一緒に歌を口ずさんでスイングしたんですよね。
    あざといことしやがってこのやろうと思いました(が、もちろん涙腺決壊。たやすい私。)
    この歌みたいにと思いながら、みんな、みにくく年をとってもがきながら死んでくのかもしれません。

    オットもぶじ向こうから帰ってきて、2人と2ぴきのいつもの生活にもどりました。わーい。
    しかしあまりの寒さにみんなでふるえています(家がすごく寒い)

    須賀敦子のその本、久しぶりに本棚から出してきました。
    ページをめくったら、アル中のツィア・テレーサの話が出てきて、急に記憶がよみがえりました。
    というわけで吸い込むように今読み直してます。

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    はらぷ Post author

    あッしまった!
    アル中なのはツィア・テレーサじゃなくってその姪でした。
    とんだ間違いを…ごめんなさいツィア・テレーサ。

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    パプリカ

    はらぷさま

    須賀敦子さんのご本を
    ご自宅の本棚に持っていらっしゃるとは

    流石! 流石!

    おみそれ致しました。

    なんとなくのイメージでコメントさせていただいたものですから、返って
    申し訳ありませんでした。

    私は図書館から借りて読んだだけですので、こちらこそ再読せねばなりませぬ。

    はらぷさん、須賀敦子さん
    ごめんなさい。

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    はらぷ Post author

    パプリカさん、えええええ!
    なぜあやまるのですかーーーーー!!(笑)

    こちらこそ、再読の機会をくださってありがとうございます!
    須賀敦子を連想してくださったなんて、あわわわわとんでもねえ!とうう、うれしい…!の超高速シーソー状態に動悸が止まりません。。。

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