ああ、先生。オフィシャルとプライベートのあいだ。
急に涼しくなった。
いつもはもっと寒くなってからのはずの手荒れが、今年は早くも始まってしまった。指先の内側の爪に近いところの皮膚が縦に割れる。特に親指がダメなので、スーパーでお財布からポイントカードを取り出したり、家で何か書き物をしようとするときに「イタっ」となる。
以前この症状で、新しく開院されたばかりのご近所の皮膚科を受診したことがある。「あー、主婦湿疹ですね。お薬を出しておきましょう。できれば水仕事はあまりしない方がいいんですけど。そうもいかないでしょうしねぇ。あ、因みにこの症状は、主婦でなくても主婦湿疹と呼びます」。
先生は、体の大きい、朴訥でひとのよさそうなひとだった。開院したばかりの真新しい病院の待合室には、いくつかの胡蝶蘭と「幸福の木」の鉢植えが、リボンをつけて飾られていた。
しばらくして、わたしはこの先生を病院以外の場所でお見かけした。それは、息子が通っていた公〇の教室。
お教室には保護者席というのがあって、わたしは息子の課題終了を待っていた。そこへ、白衣を脱いだ先生が、大きな体にリュックをひっかけてむっくりと現れた。女性ばかりの「保護者席」で「ちょっと失礼、ちょっと失礼」と大きな手を小刻みに動かし、やっとご自分の席を確保された先生のお顔には小さな安堵の表情が見えた。と同時に、先生の通られた軌跡には何やら香ばしい匂いが漂った。
一呼吸をおいて。先生は、まずご自分のお子さんの居場所を目で確認され、次に足の間におさめたリュックのファスナーをほんの少しだけ開けられた。そこから覗くビニール袋に大きな親指と人差し指を差し込まれると、小さな茶色いものをつまんでパクリとお口へ放り込んだ。
たくさんの患者さんの中で、わたしの顔をご記憶とは思えなかったが、揚げたてのから揚げをパクリとされるのをチラリと見てしまったこちらとしては、読んでいる本で顔を隠して、いよいよ素知らぬ顔を演じなければすまないような気がした。
保護者席は、教室備えの背の低い本棚で仕切られており、その棚の上には教室主催の先生の作品と思しき和紙細工と、「幸福の木」と札をぶら下げた鉢植えの植物が飾られていた。
先生の息子さんは、ひょろりと細くてとても愛嬌のあるお子さんだった。教室の長机の上に自分の課題を広げながら、あっちへコツン、こっちへコツンと消しゴムを投げては交流を図るコミュ力に長けた少年だった。
先生は、ビニール袋をくるくると丸めると少年を保護者席にお呼びになった。
公〇は課題が終わらないと帰れないところが夕暮れ時の父と子に苦悶。お父さんは、少年のプリントに目を通し、手にしたメガネケースでかたちのいい少年のおつむをポカリとやった。
ポカリとされた少年は、愛くるしい顔でテヘっと照れてみせた。お父さんは油をなめた手の指で、隣の席の椅子の座面に漢字を書いて見せた。少年は首をかしげながらそれをまねて書く。お父さんはまたポカリとやる。次には少年から鉛筆を奪い取り国語のプリントに漢字を書き入れ始めた。
保護者席は、教室備えの背の低い本棚で仕切られており、その棚の上には「幸福の木」の鉢植えが飾られていた。
父と子の連携はすばらしい。
漢字を先生に見てもらう前に、少年は父のもとに算数の計算のプリントを運ぶ。少年が先生のチェックの列に並ぶあいだ、父は保護者席で鉛筆をスルスルと走らせる。少年はこのとき、教室主催の先生の列には決して並ばず、採点のアルバイトの男子学生の列に並ぶ。コミュ力に長けた少年は、作業効率と世渡りにも長けた少年であることが窺い知れた。
かくして、父と子のミッションは、から揚げの消滅と同時に加速度を上げてコンプリート。
一日のお仕事を無事に終えた先生と、その日の公〇の課題をなし終えた少年は、温かい夕餉の待つ家路につかれた。
わたしはあれから、あの皮膚科には行っていない。病院は近いし、先生が人間味のあるおもしろいひとだいうこともわかったが、先生の前でどんな顔をすればいいか、困ってしまうからだ。
【 今日の買い物 】
@ドラッグストア ※ ポイントカードはレジに並ぶ前にお財布から出しておくこと。
・アヴェンヌ ハンドクリーム ・ 食品用ラップ ・クッキングシート・ハンディーワイパー 取り換え用シート(観葉植物の葉っぱのほこり取り用モフモフ)・じゃがりこアスパラベーコン味探す!
@デパート
・イワキ硝子保存容器 box型ハーフサイズ 白 ×2個 https://www.furaipan.com/shouhin/42takujyou02/pairekkusu/py03.shtml
( ハーフサイズのこの大きさはわたし的にはいちばん使いやすい。土曜の運動会のお弁当の下ごしらえ用に、あと二つ追加)
nao
唐揚げのつまみ食いまで見ちゃったんですね(笑)
きっと病院でそれを思い出したら吹き出しちゃうかも。
皮膚科のお医者さんって何故か個性的な方が多いような気がします。
私のかかりつけの先生は、優しいし見立ても確かなのですが
写真の沢山載っている医学事典を見せて説明してくれるのがちょっと嫌です。
主婦湿疹、お大事に!
みゆ
そういうのってありますよね(笑)
私もかかりつけの皮膚科の先生が、突然職場にきて(某メーカー住宅展示場)
俺はビップだぁ!オーラ 全開でした。
病院では、気さくないい先生だったのに、やっぱり違う病院を探してしまいました。
いつどこで誰がみてるかわからない・・・肝に銘じます!
サヴァラン Post author
nao さま
はい。「主婦の見た」でございます(違)
nao さんの皮膚科の先生も親切で面白いですね。
でも、医学事典の写真はわたしもちょっとひく。。。(笑)
実家にいた頃通った皮膚科では
そこで出される塗り薬のパッケージがコルク板に張り付けられていて
先生は毎回そのコルク板を手に
「今回はこのステロイド剤を出しときます」と説明してくれました。
そうやって見せてもらうとステロイドの強弱もわかりますし
皮膚科で出される塗り薬の種類ってそれほど多くはないのね
ということもわかって、いろいろ面白かったです。
それよりなにより。
あの板は先生のお手製と思われ。
小学生の昆虫採集みたいにお薬が板に張り付いてるのが
見ていてとてもワクワクしました。
えぐい写真満載の医学書はあんまり欲しくはないですが
先生のお手製の「塗り薬採集板」は、欲しいなーと思って
いつもガン見してました。
サヴァラン Post author
みゆさま
こういうのってありますよね(笑)
みゆさんのケースのその先生も面白いですね(笑)
俺はビップだオーラって
出さないほうがいいって、みんなわかってんのに
どうしてあれ、出しちゃうんでしょうね。
それより何より
病院での気さくさと
プライベートでのドヤ顔。
両方見ちゃった側は、落ち着かないですよね。
わたしも病院を変えると思います。
壁に耳あり障子に目あり。。。
肝に銘じます!わたしも