第54回 お腹が空く本はこれだ!の巻
師走に突入しました。
一気に寒くなっておりますが、みなさん、お元気ですか。
突然ですが、「サラメシ」を見ると、やたらとお腹が空きませんか?私は空きます。
放送時間(本放送)が平日夜11時周辺というのはどうなの?と、NHKに苦情を申し入れたいくらいです。
視聴した夜の布団の中の私の(「の」ばかりでスミマセン)胃袋方面からは、不満の声が漏れ聞こえてきます。
ぐう~と。
腹が鳴っても一人、みたいな妙な孤独感。
それはさておき、以前、このゾロメ女で村上春樹御大の名前を出したとき(第43回のこちら⇒★)HDさんから「村上春樹の小説・エッセイで、私がヤラれるのは、食べ物の描写です。」というコメントをいただきました。
そのとき、私の脳内電球もパカッと点灯しました。
そうですそうです私もそうです!と。
村上春樹の小説やエッセイには、「サラメシ」同様、こちらの食欲中枢を刺激する描写がけっこう出てきます。
その中からひとつ挙げろと言われたら、私は『中国行きのスロウ・ボート』という短編集の「午後の最後の芝生」に出てくるサンドイッチを選びます。
大学生の僕は芝生を刈るアルバイトをしていましたが、バイトを辞めることにし、最後の家で、お昼に、その家のおそろしく大きい中年の女からサンドイッチを振る舞われます。
ハムとレタスときゅうりの、辛子が効いたサンドイッチ。
これがめちゃくちゃ美味しそうで、読後、思わずサンドイッチを食べました。
他にも、村上ワールドに刺激されて、発作的にスパゲティを茹でたり、オムレツを作った記憶はけっこうあります。
あらためて、物語を読んでお腹が空いた最初の経験をつらつら考えたところ、それは、まだ年端も行かない頃に読んだあの『赤ずきん』だと思い至りました。
お母さんが赤ずきんちゃんに持たせたパンとぶどう酒とやらがやたら美味しそうで、もちろん、ぶどう酒がどんなものかはよくわかっていなかったのですが、「食べたい!飲みたい!」とやみくもに思いました。
その後、現在までのほぼ半世紀、数々の小説やエッセイで空腹感を覚えてきたわけですが・・
今思いつく限りでも、たとえば宮部みゆきの『初ものがたり』。
矢も盾もたまらず稲荷寿司が食べたくなりました。
考えてみると、時代小説ってお腹が空く小説の宝庫ですね。
池波正太郎、山本周五郎、藤沢周平、どの人の作品にも、たまらん描写がいっぱい出て来ます。
柚木麻子『その手をにぎりたい』。
高級鮨屋が出てきます。
旨い鮨が食べたくなります。
「口の中でほぐれる酢飯」という描写にヤラれました。
津村記久子『ポースケ』も。
ハタナカというカフェのメニューがやたら美味しそうなのです。
ハタナカが近所にあればいいなあと妄想しまくりました。
他にも、武田百合子の『富士日記』や一連の向田邦子のエッセイなどなど、お腹が空く本はたくさん、本当にたくさんありますが、最後に今まででいちばん印象的だったと思われる食べ物の描写を紹介します。
20代の頃に出会った文章ですが、自分が若かったこともあってか、上品でも逸品でもないところに、むしろ自分の根っこが揺さぶられるような食欲を覚えました(大げさ)。
【ひところキャンプ料理で、スパゲティ料理にいたく凝り、いく日かの不屈の闘魂によってついに「望郷シーナスパゲティ」というものを完成させた。
つくり方は簡単で、よく茹でたスパゲティを皿に盛りいきなり大量のカツオブシをコレでもかコレでもかと叫びつつばさばさふりかける。
あついスパゲティにふりかけられたカツオブシはおかしなことにそこでわらわらと身をよじって踊るのだ。
数秒それを眺めたのち続いてすぐにマヨネーズのチューブをサカサにし「コノヤロコノヤロ」と叫びつつ、ぐにょぐにょとまんべんなくひねり落下させる。
次に「ドーダドーダ」と叫びつつショー油を注ぎ、間髪を入れず全体をごちゃごちゃにかきまぜて食ってしまうのだ。】
(椎名誠『ひるめしのもんだい』)
今、読んでも「たまらん!」のは、これを書いているのがひるめしまえ、だからでしょうか。
さ、お昼お昼!!
※トップと下の画像は、先日、高校時代を過ごした福島県喜多方市に友人と4人で行った際、地元で甘味処をやっているかつての同級生が出してくれた特製お弁当です。
フライもグラタンもホタテもお刺身もここに写っていないこづゆ(会津の郷土料理のお汁)もどれもたいへん美味でしたが、写真中央、楊枝の刺さったずんだ餅が絶品でした。
でもなにより、気持ちがうれしかったです。また食べたい♥(画像はクリックすると拡大します)
by月亭つまみ
こんなブログもやってます♪→→「チチカカ湖でひと泳ぎ」<
okosama
つまみさん、こんばんは!
私のお勧めは角田光代さんの「彼女のこんだて帖」(講談社文庫)です。
食べることは癒しなんだなあと、つくづく思います。
全15回のオムニバスで、出てくるお料理の写真とレシピ付き(^^)
ところでシーナさんのスパゲティー。よく作りましたよ。パスタをたっくさん茹でて、ミートソースで一皿、シーナさんのでおかわり(笑)
つまみ Post author
okosamaさん、こんばんは!
「彼女のこんだて帖」、知りませんでした。
早速、図書館に予約しました(^-^)
そうですか。
okosamaさんも作りましたか!
そうそう!
パスタを茹ですぎて、麺だけ残ったときの有効活用ですよね。
でも若くなくなってからは、あまり作らなくなりました。
美味しそうだし、美味しいんですけどね。
若者の味、だったのかもしれません。
okosama
そうそう。シーナさんのスパゲティーは若者向けですよ。今はあまり作りません。パスタも少なめ(笑)。
お弁当美味しそう!ご飯が二色だ⁈
喜多方ではこづゆも出たんですか。ハレのお膳でしたね(^^)
HD
つまみさん、うわ~嬉しい嬉しい!
このトピック取り上げて頂いてありがとうございます。
先日のコメントでも挙げたように村上春樹の「村上朝日堂」シリーズでの食べ物の描写は絶品です。
私が特にヤラれたのは「豆腐について」と「村上朝日堂 はいほー!」に出てくる「うさぎ亭」のコロッケです。
読んだ当時、おいしい豆腐は簡単に手に入らなかったので、ホント切なかったです。豆腐の夢もよく見ました…。
そしてシーナさん!この人の食べ物の描写を読んで食欲を刺激されない人はあまりいないんじゃないでしょうか。
「わしらは怪しい探検隊」に出てくるキャンプ料理はどれもおいしそうです。特に粟島で地元の漁師たちに振る舞ってもらう「わっぱ煮」は最高です!獲りたての魚と島の手前味噌で作る味噌汁! 食べた~い!!
それから「哀愁の町に霧が降るのだ」でも食べ物の話はたくさんでてきますが、特にすごいのが、椎名誠の同居人の沢野ひとしが「もう本当にうまかった。もう本当に自分のおなかが喜んでいる、というのがわかるのだよ。うーん、素晴らしかった…。」と絶賛した「とんちゃん」というお店のカツ丼です。まだあったら行ってみたい「とんちゃん」…。
食べ物の話は人を幸せにしますね~。
つまみ Post author
okosamaさん、はい、ハレの日を演出してもらいました♥
このときのご飯、実は農業をやっているかつての同級生(女性)が作ったものだったのです。
彼女とは卒業以来、一度も会っていませんが、なんだか不意に身近に立ち現れたような気がしました(*゚▽゚*)
つまみ Post author
HDさん、こんにちは。
取り上げさせていただきました!
本当に、村上春樹と椎名誠はこの分野のツートップという感じですが、「村上朝日堂」も、「わしらは怪しい探検隊」も、「哀愁の町に霧が降るのだ」も、読んだのに覚えてない!(>_<) なんたるちあ! 哀愁・・で、沢野さんが「ヒマでヒマで肩がこる」と言ったことは覚えているのですが(^^; 食べ物のことを考えていると本当に幸せです。 もっと言うと、そう思える心身の状態が幸せってことなのでしょうか。