閑話休題 前口上
このサイトで初めて【帰って来たゾロメ女の逆襲】を書いたのは2013年2月7日です。(こんな記事でした⇒★)早いもので、丸4年が過ぎました。
記事の第1回で私は「<本にまつわる主観的で勢い重視の戯言>を書きたい!」と表明しました。そして毎回、ほぼ強引&偏屈なテーマを決め、それにまつわる本とその周辺について約60回の文章を書きましたが、2015年4月から「ゾロメ日記」にリニューアルしました。ありていに言ってネタが尽きたのです。
そのゾロメ日記も前回で68回を迎えました。日記形式で…時にはその形式にこだわらず、日々の出来事や気持ちを綴るのはとても楽しいのですが、最近、また少しずつ「本のことを前面に出したタイトルの記事も書きたい」と思うようになってきました。
私は本を読むのは好きですが、とりたてて読書家でも本の目利きでも活字中毒でもありません。これは謙遜や卑下ではなく、自分に対してのまっとうな認識だと思っています。一日の読書時間は短いかゼロの日も多く、寸暇を惜しんで本を開いたりもしませんし、本の所有欲もなければ、新刊を人より先に読みたい願望もありません。長く図書館員をやっているくせにナンなのでこっそり告白しますが、本について、作家について、さほど詳しくもないし、実のところ、詳しくなりたいともあまり思っていないのです。
それなのに、なにゆえ臆面もなく「私は読書が好きだ」と言い、本について書きたいと思うのかといえば…読書を通して、思いもかけない場所、考えたこともなかった気持ち、に出会うことが大好物だからです。本を読むことで、日常の風景や周囲の人たちがそれまでと違って見えたり感じられたりすると、おおげさではなく、この本を読む前に死ななくてよかったと思います。そして、それらについて雑感を述べることは数少ない長年の「趣味」なのです。
先日、『本屋、はじめました』(辻山良雄/著)という本を読みました。静かで押しつけがましくなく、小憎らしいほど落ち着いた筆致の本なのに、ガツンと衝撃を受けました。
著者は、荻窪でTitleという本屋さんをやっている人です。私は以前、「いどばた。」で、お店をはじめるなら本屋さんをやってみたいと書いたことがありますが(⇒★)この本が私の心にヒットしたのは、必ずしも私の夢を、地に足がついた見事さ(苦労話を前面に出さない奥ゆかしさも含めた小憎らしいほどの見事さ)で実現させているせいだけではないようなのです。
なぜなら、この本を読んでいる途中から私の中にむくむくと湧き起こった気持ちは、本屋さんっていいな、ではなく(じゃないのか!)、「やっぱり【帰って来たゾロメ女の逆襲】で本のことを書こう」だったからです。
どうして『本屋、はじめました』を読んでそう思ったのか、上手く説明できません。書こうとしてみたのですが、言葉を重ねるほどに、似て非なる手軽な言葉で気持ちをショートカットしてしまいそうになる自分がうさんくさくなり、やめました。力不足。修行が足りん。
ただ、この本の183ページにあった
<マーケティングから売れる本の何が良くないかと言えば、必ず違う似たような本に取って変わられるからです。言ってみれば「替えがきく」という事なので。本は、元は一冊一冊が「替えがきかない」はず。替えがきかない「切実な本」にこそ、人の興味はあると思います。>
は、心に残りました。「切実な本」っていい表現ですね。小憎らしいほどです。(「小憎らしいほど」って三回言った!)
そんなわけで、2017年度は【帰って来たゾロメ女の逆襲】を再びリニューアルします。勝手にやってくれよ、かもしれませんが、自分に言い聞かせたく、長々と(ピントがボケた)前口上を述べさせていただきました。
あらためて、今年度の木曜日のこの枠のラインナップをお知らせします。よろしくお願いします。
第1木曜日 まゆぽさんの【あの頃アーカイブ】
第2木曜日 つまみの【帰って来たゾロメ女の逆襲 私的切実本(仮)】
第3木曜日 はらぷさんの【なんかすごい。】
第4、5木曜日 つまみの【帰って来たゾロメ女の逆襲 ゾロメ日記】
…語ったわりに、この腰の引けた頻度。ヘタレだわ、わたし。
byつまみ
『本屋、はじめました』の楽天ブックス情報はこちら ⇒ ★
まゆぽさんとの掛け合いブログです。→→「チチカカ湖でひと泳ぎ」
◆来週は第三木曜日。はらぷさんの「なんかすごい。」です。
Comet
金曜日に買って、土日で一気に読んじゃいました。
「地に足がついた見事さ(苦労話を前面に出さない奥ゆかしさも含めた小憎らしいほどの見事さ)」
まさしく!
夢を語るわけでもなく、希望を与えてくれる本でもないのに
私も、何か始めたくなりました。
つまみ Post author
Cometさん、感想ありがとうございます。
そうそう。
物語でも奇想天外なおもしろエッセイでもないのに、一気読みしちゃうますよね。
私もそうでした。
若いのに(あくまでも自分比)落ち着いていて、洞察力と判断力だけじゃなく直感にも秀でていて、でも達観とはまた違う静かな勢いも感じられて、何度も言いますが「小憎らしい」。
現物…いや、本人も穏やかな雰囲気を醸し出してはったな。
日常のオオモトは変わらなくても、日々のちょっとした向き…というか優先順位が変わるような、湧き上がらずとも滲み出るものを大事に掬い取りたくなるような、じわじわした原動力を意識したくなる本でした。
凜
こんばんは。
「やっぱり本のことを書こう」
じゃんじゃん書いてください!とっても楽しみにしてます。
世間ではいろいろ本屋大賞とか話題になる本は多いのですけど、実際に読んで心に残る、余韻があって再読してしまう本というのは古典かまたはひっそりと存在しているもので誰かにさりげなく紹介されて手に取ってみたらものすごくよかった・・・ということが圧倒的に多いように思います。
つまみさんが以前紹介された「なずな」の堀江敏幸さんも、まったく存じ上げなかったのですけど、読んで、しばらくしてから土曜の日経新聞に「傍らにいた人」という連載をされていることに気づき。先日は佐多稲子の「水」について(堀江さんの文章とても好きになりましたー!)。もしもつまみさんが「なずな」紹介されていなかったらこの連載もスルーしていただろうと思います。
つまみさんに感謝です。
少し前に、クウネルの記事で酒井順子さんと豊崎由美さんの読書対談があり、それがきっかけで「風と共に去りぬ」を読んだのですが(ほんと今更で恥ずかしいですが、そしてあの長さにちょっとひるむんですけどお二人の対談がすごく楽しくてこれ読まないと絶対損だろうという気にさせるんです。)、圧倒されました。これ生きてるうちに読んでほんとによかったー!!というくらい。私にとっては「替えがきかない」ので、また何度でも読み返すと思います。
本を読むことも好きですが、誰かが「こんな思いもかけない場所に連れて行ってくれるよ」と未知の本の話をしてくれるのを聞くことも大好きです。それはものすごく個人的な意見であって当然で、それだからこそ伝わってくるものがあるのですよね。
長々と失礼しました。では、楽しみにしています(^^♪
つまみ Post author
凛さん、こんばんは。
わー、うれしいコメントです。
この記事は、ひとりよがり感がハンパないなあと、確信犯ながらも気になってもいましたので、うれしいだけじゃなく、手を差し伸べてもらったようなありがたさも感じます。
「個人的な意見であって当然で、それだからこそ伝わってくるものがある」って本当ですね。
そんな風に思ってくださる人がこのサイトの文章を読んでいる…というより、そういう人だからこそ、このサイトに来てくれるような気がします。
それって、スゴイことだと思います。
『風と共に去りぬ』、読んだのは十代のとき一回だけです。
確かにあの長さに怯みますが、長さという重い扉の向こうには新しい、十代に感じたものとはまるで違う世界が拡がっているのでしょうね。
私もチャレンジしたくなりました。