ゾロメ日記 NO.76 うさんくさい謙虚さとうさんくさくない謙虚さ
◆9月某日 うさんくさい謙虚さ
今から10年ぐらい前、職場の同僚の、当時20代だったシダ君に「月亭さんは、自分が思っているより人を見る目がないと思う」と言われた。
職場で、ちょっと信じられない言動をとる女子がいたときのことだった。そのことでぐったりしていたので、シダ君に「まさか、あんなことをする人だとは…」的な愚痴をこぼしたのだが、彼は「自分は全然意外じゃない。前からそういう人だと思っていた」と言ったのだった。そして冒頭の言葉がつけ加えられた。
私は「人を見る目があるなんて思っていないけどなあ」と言い返した。やんわりと。大人だから(笑)。実際、思ってないと思っていたから(まわりくどいな)。それに対してシダ君は「あると思ってる気がする」と軽い調子で、でも「気がする」という言葉を用いている割には断定的に言った。私はちょっとムッとした。
以来、シダ君のその言葉が時折脳裏をよぎるようになった。でも、そこにふしぎと不愉快さはなかった。若僧(言葉のあや)に「自分が思っているほど人を見る目がない人」というレッテルを貼られたという、ちゃんとした大人にとっては耐えられないかもしれない屈辱的でマヌケな記憶なのに、なぜか悪い気分じゃない。むしろ、脳裏に浮かぶと肩の力が抜けて、すうっと気持ちがラクになった。
あれをきっかけに、あまり他人をジャッジしなくなった気がする。しそうになると、またぞろ「まとっぱずれかも」と思い、出しかけた気持ちを引っ込める。だって私、自分が思っているほど人を見る目がないらしいから。
そうは言っても、リアルタイムで瞬時瞬時に人に抱く感情は以前と変わらない。好感を持ったり、逆だったり、期待したり、がっかりしたりを繰り返しているのは今までどおりだ。でも、がっかりのダメージは少し減ったように思う。だって私、自分が思っているほど人を見る目がないらしいから。
そりゃあ、見誤ったり、勝手に期待してがっかりもするさ…と、がっかりダメージのセーフティネットを張れるようになった。
もしかして、行動は図々しくなったけれど、内面はむしろ謙虚になったのかもしれないぞ私。…いや、逆?開き直っているだけ?でも、いもしない「わかってる人」「デキる自分」を自分の中にみつけようとしないってラクだ。
先日(と言っても数ヶ月前)、やはりシダ君のことをよく知る友人のアカギさん(女性)とお昼を食べた。隆盛を極める星野源の話になり、私が「星野源を見るとシダ君を思い出す」とコメントしたところ、アカギさんは「確かに少し似てますね。あ、シダ君に教えてあげよう」と言って、その場で彼に事の次第をメールした。
数分後、シダ君から、星野源のイケてない画像付きの「これとは似ているかも。ご無沙汰してます。ふたりは今どこにいるんですか。区内なら30分で行けます」という返信があった。
アカギさんが「…だそうですが、なんて返事します?」と聞いてきたので、「『もう食事も終わって店を出るので来なくていい』でいいんじゃないですか」と答えると、アカギさんは「そうですね」と言った。
10年越しの意趣返しか、私。
◆9月某日 うさんくさくない謙虚さ
夫と、夫のジャズベースの師匠Yさんのライブを見に行ってきた。その感想をこのサイトのメーリングリストに載せたのだが、ちょっと加筆修正して転載してしまおう。
西荻窪に行ってきました。
あいにくの雨でしたが、行ってよかった。
師匠のベースはいつもどおり、かっこよかったのですが
今回のフロントの、Nさんという女性の
クロマチック・ハーモニカの演奏が
すごくステキでした。
技術的なことは全くわかりませんが
深みのある音色が素晴らしく
(たびたびアコーディオンの音にも聴こえた)
でも吹き方は意外と淡々としていて
風情はどちらかというと「あたし、できるかしら」
と不安げにさえ見えて
MCもたどたどしかったりしました。
でもでも、演奏は本当にかっこよかった。
そして、いかにも「アタシやるからね」では全くない
雰囲気とのギャップに好感が持てました。
上手なくせに、やるくせに、なんなら自信あるくせに
「いえいえ、私なんて」と謙遜しすぎる人はどうかな
と思うことがありますが
謙遜と謙虚と卑屈は当然ながら全然違うし
きっとNさんは、登ろうとしている山のイメージができていて
そこに自分は至っていないという自己評価ゆえの謙虚さ、
「最近、やっと演奏を楽しめるようになってきた気がします」
というコメント、
なのだと感じました。
Nさんはたぶん私より年上で
本格的にハーモニカを初めたのは
どうやら40代以降らしいです。
もともと才能やセンスはあったかもしれませんが
ここまでの努力を想像すると、
ああああ、とやみくもに頭を垂れちゃうというか
勇気づけられるというか。
心に響く演奏を聴いて
とてもいい気分で帰路につきました。
by月亭つまみ
第1木曜日 まゆぽさんの【あの頃アーカイブ】
第2木曜日 つまみの【帰って来たゾロメ女の逆襲 月刊 切実本屋】
第3木曜日 はらぷさんの【なんかすごい。】
第4、5木曜日 つまみの【帰って来たゾロメ女の逆襲 ゾロメ日記】
まゆぽさんとの掛け合いブログです。→→「チチカカ湖でひと泳ぎ」
モリミー
うさんくさくない謙虚さ。いいですよね〜。謙虚と謙遜と、卑屈は違う。全くその通りです。
何十年も経つのにまだ忘れません。子供が中学生だった頃、学年でヒトケタの順位のお母さんに、お子さん、勉強出来るね。と言ったら、うちのなんか、全然ダメと返され、全然ダメ以下の我が子はどうしたらいいのと思いました。頑張っているからね〜とか言って欲しかったです。それ以来、何か褒めてもらえることがあったら、妙な謙遜はしないで、ホント❓ありがとう。嬉しいなと言うようにしています。
うさんくさい謙虚な人とは、自衛手段として距離をとるようになりました。
ちなみに、私も 人を見る目 ありません。諦めています。
つまみ Post author
モリミーさん、こんにちは。
コメントありがとうございます。
ああ、確かに。
誉められたときの返しが、気持ちのいい人とモヤモヤする人がいますよね。
こどもが誉められたら、いっそ、「ひゃっほー!」と喜んでくれた方が好感が持てますね。
でも、過去に素直に喜んでなにかめんどくさい思いをした経験でもあるのかもしれませんねえ。
でもやっぱり、基本的には、誉めてくれた人を信じて喜んでほしいですね。
諦めると、そこから見えてくる世界があるのだと、中年になってから知りました(^-^)