初めての友だちは、秘密のにおいがした。
みなさま、こんにちは。12月も中旬になりましたが、いかがお過ごしでございましょうか。
かくいうわたしはやり残したことが多すぎて、やり残したなー、残しすぎたよなーとつぶやきながら、テレビの中のクリスマスイルミネーションが涙で見えない、じじょうくみこです。
なお、シマ島にクリスマスはありません
さて。
シマ島で自分らしく生きる道を探ろうとしたものの、ヤギに焼きそば焼きそば言われたり、ハブとマングースに挟まれるばかりで(ってどんな島なんだ)、いっこうに突破口は見えませんでした。そばを焼くべく動いてみたりもしたのですが、それってつまり島のイベントをボランティアで手伝うということで、でも趣味や職場や何かのグループに所属していないとボランティアも受けつけていないことがわかって、わたしのような一匹狼はお呼びじゃないのでありました。焼きそば、思ったより遠い!
ダンナはん・ザビ男との関係は良好で、それでじゅうぶんじゃないかと自分に言い聞かせたりもしたのですが、ザビ男がわたしの人生のすべてを満たしてくれるわけではないのであって、つまりなにが言いたいかというとわたしは
女ともだちが切実に欲しいーーーーー( ;∀;)
ということなのでありました。
究極のムラ社会みたいなこの島では、話したことがどこで誰にどう伝わるのかわからないので、会話をするときはよくよく注意が必要です。勝手がわからない新米島民なら、なおさらのこと。それにわたしはまわりに「ハブかマングースの仲間」と思われているので、わたしに近づいてくる島民もそうそういないのでした。
なんでも話せる友だちは、内地にたくさんいる。だから島を出たときにたっぷり話せばいいじゃない。そう思ったりもするけれど、ザビ男にもわからない島の女の流儀を教えてもらいたいし、なにより他愛ないバカ話や愚痴を言い合える相手がそばにいるのといないのでは雲泥の差です。
そうはいっても島で日を重ねれば、それなりに知り合いはできるもの。ふたりほど、仲良くなれそうな人が出てまいりました。ひとりは、ザビ男の遊び仲間のひとりであるシュウコさん。はじめは大人数の宴会(ハブ&マングース含む)で一緒になるだけでしたが、あるときふいに「サシで飲もうよ」と誘ってくれ、ふたりっきりで飲むことになったのです。
わたしより少し年上のシュウコさんが、東京のアパレルメーカーでバイヤーとして世界中を飛び回っていたという、絵に描いたようなバリキャリさんだったことをそのとき初めて知りました。そんな彼女が40代半ばで島の漁師!のもとに嫁いだんだからサア大変。「シマ島最大のミステリーって言われてるんだからね!」とカラカラ笑う、とても気持ちのいい大酒飲みの女性でありました。
なれそめが気になりすぎる
わたしがシマ島に来たころ、あまりのストレスで「毎日花壇に熊手でひたすら円を描いていた」と打ち明けると、「そうか、もっと早く声かければよかったね。私もそうだったなあ。台所で1日1枚皿割ってたからねーあははは」と豪快に笑いとばすシュウコさん。シマ島に来て初めての、最高に楽しい夜でありました。
ところが。これからはちょいちょい飲もうねーなんて話していた矢先、シュウコさんが仕事に出ている間にダンナさんが自宅で倒れるという事故が発生。脳梗塞の後遺症で手足に麻痺が残り、彼女とゆっくり話すどころではなくなってしまいました。
もうひとり、仲良くなれたのがハルミさんです。ハブ&マングース(しつこい)と同じくザビ男の同級生の奥さんでしたが、家がすぐ近くということもあって、ちょくちょく野菜やお惣菜を持ってきてくれたり、なにかと声をかけてくれる女性。のちにカマドスーパーで一緒に働くことになり、親しみやすいキャラクターから店でも大人気の彼女のことを、好きになってしまうのは時間の問題でありました。
聞くところによるとハルミさんは内地で結婚、出産、離婚を経験した末に、ずっと年下のダンナのところに嫁いで島に来たという。ああ、ここにもドラマがありそう。聞いてみたい。どんな人生を過ごしてきたのか、じっくり話を聞いてみたい! ただ彼女はダンナと自分、両方の母親を自宅で介護していたのです。ひとりのお母さんは足腰が悪く、もうひとりのお母さんは痴呆で徘徊あり。ハードな毎日を過ごしている彼女に「ごはんでも行かない?」と誘うのは難しい状況でした。
世代的にしかたないことではありますが、深くつきあえそうな人と会えそで会えないというのは、なかなかに切ないものです。LINEで会話ができる相手が見つかっただけでも大進歩!ではあるのですが、やっぱりここで友だちを望むのは無理なのかなあ、とあきらめかけていたとき。
「あ、くみさーん! 今日からよろしくお願いします!」
隣の家から見慣れた顔がのぞきました。お手伝いしているNPOの女性グループ、通称「シマ島のチャーリーズエンジェルズ」のひとり、キリちゃんでありました。
ぐっもーにん、ちゃーりー?
キリちゃんは、ちょうどわたしと同じ時期にシマ島にやってきたアラサー女子。内地でシマ島の男と結婚して暮らしていたようですが、Uターンで帰郷したダンナの後を追って島へやってきました。しばらく実家暮らしをしていたのですが、空き物件が見つかったので晴れて独立。その引っ越し先がたまたま我が家の隣だったのでした。
大量の荷物をふたりっきりで運び入れていたのを見かねて、ザビ男と一緒に引っ越しを手伝うことにしました。高校で臨時職員をしているというダンナのカンちゃんとはその時初めて会ったのですが、あたりのやわらかい優しそうな男子です。聞くところによると、もともとバンドマンとして芸能活動しているんだとか。
「カンはさ、どうも嫌われているみたいなんだよな。祭りの練習に積極的に参加しているんだけど、踊り手には入れないらしい。踊り手は足りてないし、島の文化もよく勉強しているのに、どうしてあんなに認められないのかなあ」
帰宅したザビ男が、ぼそりとそうつぶやきました。へえ、そうなんだ。そのときは本当にそれくらいにしか思っていなかったのですが、後にその意味の大きさを思い知ることになったのです。
そして。キリちゃんとはNPOで同じような事務仕事を任されていたこともあり、ご近所さんになったのを機にグッと会話が増えていきました。同じ時期に島に来たので悩みや感じ方がとても似ていて、いつも話をし始めると止まらなくなりました。カンちゃんは社交的な人らしく、しょっちゅう飲みに出歩いていたので、そんな夜はキリちゃん家か我が家で一緒に飲んだりもして、ああやっと友だちらしい友だちができたと喜んでいたのですが。
あるとき、彼女が内地にいたころ三ツ星ホテルの広報として働いていたことを知りました。超高級ホテルの広報といったら、花形のイメージしかありません。しかも言い忘れましたがキリちゃん、目がさめるような美人です。仕事がバリバリこなせる才女であることも、一緒に働いていればわかります。
それなのに、なぜあんなうだつが上がらなそうな男(失礼)と結婚して、こんなクソ遠い島(失礼part2)にやってきたのか。しかも、仕事はできるし接客も完璧、働く気もマンマンな若手女子なんて島じゃ貴重な人材なのに、どこへ行っても仕事が決まらないというのです。
あーー。謎しかない。
知りたいような、知るのがこわいような、そんな思いを抱えていたある夜のこと。休日を返上してNPOイベントの裏方としてこき使われたキリちゃんとわたしは、キリちゃんの家で打ち上げをすることにしました。打ち上げといっても、お互いのダンナが留守の間にビール1本でささやかな乾杯をするだけの話。それでもわたしにとっては、じゅうぶんな喜びでありました。お菓子をぽりぽりつまみながら「今日もきつかったねー」なんてぼやいていると
「キリちゃん、ちょっとキリちゃん、いないの?」
ふたりの熟女がノックもせずにドカドカと入ってきたのです。
「あらあ、お楽しみのところ邪魔しちゃったわね。ごめんなさいねえ」
「どうしたんですか? おかあさん」
なるほどカンちゃんの母親ですね、と察知しました。もうひとりはどうやらお友だちのようですが、ふたりともわたしのことを知っているようで特に挨拶することもなく(島あるある)、たいそう自然な流れで目の前に座り込んだのです。
「ちょっとさ、メールの設定がわからなくてさ。これどうやるの? 明日でもよかったんだけどね、気になったらいてもたってもいられなくて来ちゃった。やってくれる?」
おもむろにケータイをキリちゃんに渡し、おばさまふたりはわたしのことなどおかまいなしに、明日ライブのチケットを予約する韓流アイドルの話を始めました。キリちゃんはケータイをいじっている。おばさまはしゃべっている。ビールはぬるくなる。なんだこの夜11時。
1時間たってようやく設定が終わり、「ありがとうね〜またよろしくね〜」と言い残しておばさまがたが去ったころには、ビールはすっかり気が抜けておりました。
「お母さん、いつもあんな感じなの?」
「そうなんです。おばあちゃんもそう。毎日呼び出されるんです。電話を無視していると、今日みたいに家に上がり込んでくるんです。おかしくなりそう」
「そうなんだ。大変だね…」
「カンちゃんの同級生は同級生で、カンちゃんのこと仲間はずれにしているんですよ。ひどいと思いません? シマ島の人って、ヘンですよね。ヘンです。ホント、冷たいです」
「え、そ、そうかな?」
「冷たいです」
「………」
その後しばらくしてわたしは、ダンナのカンちゃんが周囲のひとに「自分が結婚したことは黙っていてほしい」と頼んで回った、という事実を知ることになりました。隣の家から、秘密のにおいがプンプンする。そしてこのふたりは、やがてシマ島にとんでもない事件を巻き起こすことになるのです…。
つづきはまた来週。それではまた崖のところでお会いしましょう。じじょうくみこでした!
text by じじょうくみこ
illustrated by カピバラ舎
*「崖のところで待ってます。」セカンドシーズンは12月末までの毎週日曜更新です。
バックナンバーはこちら→★
2ndシーズンはこちら↓
2-1 ハーフセンチュリーは嵐の季節。
2-3 恋わずらいみたいになって、あのひとにメールを書いた。
2-5 島暮らしってサバイバル。だって、ハブとマングースのはざま。
okosama
ええー⁈
シマ島だから、きっとともだちは海のにおいだと思っていたのに!
はしーば
ニューカマーはカンちゃん&キリちゃん。
謎だらけの夫婦。
シマ島物語は、だんだんと「LOST」(ふるっ!)の世界になっていってませんか〜(^^;;
西へ向かえ
はじめてコメントします!
いつも腹を抱えては涙したり、元気をもらったりしています。
そしてこれは、、、今期のドラマよりも先が気になって仕方がありません!!!
じじょうくみこ Post author
>>okosamaさま
お返事遅くなりましてすみませんー(-。-;
海のにおいだったらよかったんですが(笑)
なかなかのかほりがただよっておりました。。。
>>はしーばさま
こんにちは!コメント遅くなりごめんなさい!
えーと、LOSTよく知らないのでわからないのですが
おばちゃんが離島でスットコドッコイな目にあう話でよろしかったですか?( ^∀^)
>>西へ向かえさま
初めまして、コメントありがとうございます!
楽しんでいただけて光栄です。
そしてオチ更新しましたが、なんかすいません(笑)