【月刊★切実本屋】VOL.16 2018上半期 印象的だった本
夏が始まる頃まではやる気満々だったのに、酷暑のせいか、すっかり忘れてしまいました。
そうです、【2018年上半期ベスト本】です。2017年は、枠をはらぷさんの【このマンガがなんかすごい。】に泣く泣く譲りましたが(大うそ)、今年は2016年に続いて、関係者に泣きついて、なんとならば脅して(!)、半期のスパンのベスト本セレクトを復活させようと思っていたのでした。楽しみにしてくださっていた推定百万人の方々、申し訳ありませんでした。…かなり盛ったな自分。
というわけで、せめてものお詫びに、ワタクシが今年の上半期に読んで印象的だった小説をいくつかご紹介させていただこうと思います。しばしお付き合いください。
■『ディス・イズ・ザ・デイ』 津村記久子/著
やたら、なにかをアツく応援する人が苦手な方ですが、サッカー2部リーグを応援する人々を描いたこの11編の小説はどれもとてもおもしろくて、オリンピックやW杯などの、みんな同じ方向を見ることを前提にした「感動をありがとう」「がんばれ!ニッポン」よりずっとずっとリアルで好感が持てました。
そうなんですよね。応援するって本来は個人的な行為で、一人の人間の中でも、状況や時間の経過で、その濃淡や強弱や遠近は一定じゃない…そう考えると応援っておもしろいかも、と思いました。
応援する側にもその人の数だけ日常にドラマがあるのは言わずもがなで、それを応援に巻き込んだり巻き込まなかったりすること、そのさじ加減こそが、唯一無二の応援というか、一見同じ方を向いているようでも、それぞれが独立した、その人ならではの応援になるのだなあと考えたりしました。
津村記久子の小説にハズレなし!
■『憂鬱な10か月』 イアン・マキューアン/著
語り手は胎児です。奇をてらった設定みたいで、実際そうなのですが、筆致はエグくもおもしろおかしくもなく、妙に自然で、その不自然な自然さがこの小説の大きな魅力です。
美しいけれど浅はかな母親、能なしに見える詩人の父親、母親と関係を持つ単細胞な叔父。中盤までは母親と叔父の単純な不倫が主軸として描かれていたその愛憎が、途中からもうひとりの女性が登場することで、当人たち自身も意外だったりする心理や行動が顕わになって謀略の背中を押していきます。人はなんと愚かで成長しない生き物なのか。それを「手も足も出ない」状態で観察し続ける胎児。うん、やっぱりシュール。そして、胎教って大事!?
この作家の小説は『未成年』しか読んだことがありませんが、シニカルなストーリーテラーっぷりがけっこう好みかも。他の作品も読んでみようっと。
■『百年泥』 石井遊佳/著
男運皆無、多重債務、印度逃亡、天変地異、飛翔通勤、無我泥中、妄想炸裂、奇想天外、荒唐無稽、支離滅裂、今後期待、結構好感、祝芥川賞!
■『朝鮮大学校物語』 ヤン・ヨンヒ/作
結婚して最初に住んだアパートの隣が朝鮮初級学校でした。入居の際、そのことはまったく意識していませんでしたし、住んでからも特になにがあったわけでもありませんが、日曜日、朝寝坊を決め込んでも、大音量の校内放送で起こされたり(また寝たけど)、通学時のこどもたちのいでたちや整然とした集団登校の様子に「すぐ近くにある外国」を感じました。1980年代前半のことです。
今現在も、自分の朝鮮民主主義人民共和国の知識は、人並みかそれ以下です。ただ、去年見た「かぞくのくに」という映画がとても印象的だったので、この映画の監督である梁英姫さんが自分の学生時代を小説にしたと知って、そりゃあ読まねば、と思ったのでした。
少し物足りなかった。自分が何を期待していたのかよくわからないのですが。でも、平成が終わらんとする今だからこそ、当時の朝鮮大学校と北朝鮮の様子を、ノンフィクションとフィクションの垣根をとっぱらって描こうとする意味は大きいと思います。掛け値なしの意欲作だと思います。ただ、その気合いが、むしろとっぱらったはずの双方の魅力を少し削いでしまったように感じました。
ノンフィクションなら、もっと突っ込んで、えぐるように描いてくれたんじゃないか、フィクションなら、「ここは日本ではありません」と声高に表明する側の気持ちに深く切り込んで拡げてもよかったんじゃないか、なんて。言うは易し、なのかなあ。
by月亭つまみ
◆木曜日のこの枠のラインナップ
第1木曜日 まゆぽさんの【あの頃アーカイブ】
第2木曜日 つまみの【帰って来たゾロメ女の逆襲 月刊 切実本屋】
第3木曜日 はらぷさんの【なんかすごい。】
第4木曜日 つまみの【帰って来たゾロメ女の逆襲 やっかみかもしれませんが…】
まゆぽさんとの掛け合いブログです。→→「チチカカ湖でひと泳ぎ」