【月刊★切実本屋】VOL.33 こういうときこそ、好きな本を
新型肺炎で世の中が騒然としています。
ここ数年、主に台風関係でですが、「これまでに経験したことのない」とか「数十年に一度の」などという文言を「頻繁に」聞くようになりました。これって考えてみるとシュールです。まるで、「きわめて稀なこと」と「しょっちゅう起こること」をイコールで結べ、と言われているよう。
今回の新型肺炎に関しても、予測や対策やその他の情報が錯綜し、真逆に近いものが同時多発的に発信され、混乱することが多いです。
休校は正しい決断だったのか、保育園はどうするべきなのか、PCR検査はどんどんやるべきなのか…などなど、両論を挙げ出したらキリがありません。
一般市民やマスコミはもちろん、国も専門家も、誰も現時点での正解がわかってないわけで、その不穏さったらありません。テレビやインターネットを見ていると、つい玉石混交(玉があるかどうかは知らんけど)な情報に振り回され、生活全般に対する見通しの立たなさに不安が募り、果ては、世界の終わりかよ、ぐらいな気分になりそうです。
私は呼吸器に疾患を持っていて、それでなくても「ストレスが大敵」と言われているので「ストレスを溜めるな!免疫力が落ちるぞ!」と声高に叫ばれることがストレスです。高齢者と基礎疾患持ち以外はそうそう重症化しないのではないかという予想には「じゃあ、私はするのか」と落ち込みます。
なんだか、人間性を試されているみたい。キャパが小さいのが如実にバレてしまう。
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そんなわけで、現在の個人的防御策としては、東北医科歯科大学病院が作成した「新型コロナウイルス感染症 ~市民向け感染予防ハンドブック」の必要と思われる部分をプリントアウトして、トイレの壁に貼って、衛生方面で気をつけるくらいで、その手のテレビ番組はあまり見ないようにしています。見なくても、大きい情報はスマホに飛び込んでくるので。
そして、いたずらに買い占めに走らず(走りたくても目的のブツがないわけですが)、花粉症で鼻をぐすぐすさせながら、こういうときこそ、好きな音楽を聴き、好きな本を読もうと思っています。
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というわけで本題です。
こちらの記事でも取り上げた原田ひ香さんと中島たい子さんブームはその後も続いていて、この数ヶ月は、ふたりの小説を交互に日替わりで読んでいる感じ…でしたが、いちばん最近一気読みしたのは、中島は中島でも、中島京子さんの『夢見る帝国図書館』です。
中島京子さんは以前から好きな作家で、4年前の記事で勝手にベスト3を選んだこともあります。(こちら⇒★)
この記事で私は「中島京子さんの講演会に行った」と書いていますが、その講演会が開催された「国際子ども図書館」こそ、今回の小説の舞台である帝国図書館の現在の姿です。これは読むでしょう!
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タイトルが魅力的です。帝国図書館という、硬質で隙のなさそうな名称に「夢見る」をカブせたネーミングセンス、好きだなあ。でもあらためて考えてみると、図書館に在る書物はすべて人間の脳内経由なわけですから、時代がどうあれ、それがフィクションだろうがノンフィクションだろうが、夢と図書館の親和性は高いのかもしれません。
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フリーランスの記者で小説家未満の<わたし>は、国際子ども図書館の取材の帰り、上野公園で喜和子さんという女性と知り合います。
<わたし>は、60代ぐらいで個性的で自由そうに見える喜和子さんに、それまで誰にも言ったことがなかった「小説を書いている」ことをなぜかカミングアウトします。
喜和子さんの反応は「あらやだ。あたしとおんなじ!握手しよう」で、二度目の出会いで彼女の家に招かれた際、彼女から「上野の図書館のことを書いてみないか」と頼まれます。
<わたし>が「書きたいなら自分で書かなきゃダメです」と返すと、喜和子さんは、タイトルだけはすでに決まっているのだと明かします。それが【夢見る帝国図書館】なのでした。
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ここから小説は大きく二手に枝分かれします。ひとつは<わたし>と喜和子さんのその後。そしてもうひとつは、帝国図書館をモチーフに描かれる、明治から太平洋戦争後までの激動の歴史、その名も【夢見る帝国図書館】。
二手とはいえ、それぞれの枝葉はさらにどんどん拡がります。
前者では、戦争や世相や家族に翻弄された喜和子さんの人生の謎解きがメインになりますが、多彩な登場人物がそれぞれの視点、角度から描き出す喜和子さんは多面体で、<わたし>は自分にとっての「喜和子像」と違うそれらに困惑しながらも、人間の自由ということについて考えることになります。
後者は、洋行帰りの福沢諭吉の「ビブリオテーキ(文庫)!」発言に端を発し、帝国図書館の初代館長となる永井久一郎(永井荷風の父)の苦労と奮闘から戦後までの「激動の帝国図書館史~featuring文豪」です。図書館にとっては暗く過酷な時間が長かったものの、幸田露伴、樋口一葉、宮沢賢治、ゾウのハナコさん…etcまでが登場する【夢見る帝国図書館】の筆致はどこか豪華絢爛です。
そして、なんだかんだあって(雑!)、最後に、その二手を結ぶと思われる言葉が登場し、物語は一本の樹に還り、私は深く息を吐いて、満たされた思いで本を閉じました。
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中島京子さんの小説が好き、特に『FUTON』『イトウの恋』方面が好きな人にはたまらない構成、世界だと思います。そして彼女の書く小説には、常に魂の自由を求める姿が描かれている気がしますが、今回もそれを強く感じました。
面白い小説を読むと免疫力が上がる(ってことにしよう)。新コロなんかに負けてたまるか!
by月亭つまみ
okosama
つまみさん
これ、読みます!
新コロてw
つまみ Post author
okosamaさん
わーい!やったー。
新コロ、誰かが言ってて、そのまま無意識に使っちゃってました。
今、確認したら、まゆぽさんとCometさんでした。
無意識下の影響力ありそうなふたり(^^;)
Jane
この一週間でイベントがことごとくキャンセルされ、多くの大学もオンライン授業に移行、そして今日は朝からスーパーがものすごく混んでて人々が半端じゃなく買い込んでた(毎冬ストームが来る前はみな買い込むのですが、上をいってました)と思ったら、突然舞い込んだ小中高校の休校のお知らせ。次に人が向かうのは、図書館でした。一人で十何冊もの本を借りていく老若男女でいっぱい。図書館だっていつ閉まるか分かりませんもの。なにか「俺はサバイブするぜー!」みたいな異様な興奮が人々の中に満ちていて、それが妙な連帯感をつくっている感じ。スーパーでも図書館でも笑い声が聞こえますから。仕事が突然休みになってラッキー!と思っている人も(私だ)いるのでしょう。
自宅でいくらでも映画を見られる時代でも、こんなに本を借りていく人がいるんだなと思いました。現実逃避して、浮世のあれやこれやを忘れたいですよね。
つまみ Post author
Janeさん、コメントありがとうございます。
わー、そちらも一気にそのような状況ですか。
ストームなどの気象とは、また違う規模というかリーグですものねえ。
目に見える興奮や連帯感、日本はあまり感じられないような気がしますが、こちらも、図書館の本の予約が多いという話は聞きました。
今、東京は、開館はしているものの、予約本の受け取りと返却しかできない図書館が主流になっているようです。
かくゆう私も、巣ごもりのような感覚で、図書館から本を借りてきて、ビニールコーティングされた本をアルコール系のウエットティッシュで拭いて読んでいます(^^;)
なんとか、なんとか感染の大爆発を防げないものか。
衛生関係と医療機関に対しての節度ある連帯感が打開策のひとつなのですかねえ。
ホント、現実逃避して、浮世のあれやこれやを忘れたいっす。
okosama
つまみさん
これ、良かった!
そして、つまみさんのレビューを読み返して、ホントその通りだわ、と。
上野公園に行く楽しみが増えました。
ご紹介、ありがとうございました。
つまみ Post author
okosamaさん、良かったですか。良かった!
自分の書いた感想で読んでもらえて、感想をもらえるって本当にうれしいものですね。
それにしてもokosamaさん、行動も読むのも早い!
okosama
つまみさん
パラパラと見てから決めようと探しましたが、市内最大の書店にもなく、古本屋さんにも無く、結局アマゾンに頼りました。お店にはもう新刊しか置かない仕組みなのでしょうか。
上京すると必ず上野公園には行くので、身近に感じたこともあり、一気読みでした。
長らく読書から離れていましたが、ここのところ未読本を読む毎日なので、勢いづいてるんです 笑
つまみ Post author
okosamaさん
「勢いづいてる」、わかりますわかります。
私もまさに今そうなのです。
私も、上野公園に行きたくなりました。
国立科学博物館にも行きたいです。