【月刊★切実本屋】VOL.46 雑談の力
今回は変態野郎 星野源の本『星野源雑談集1』についてだ。
んまあ、今をときめく(「今」の期間がまー長い!)星野源を変態だなんて失礼な!と言われそうだが、ケンドーコバヤシ(以下ケンコバ)との章で本人が言っているのだから、失礼ではないのである。
雑談(対談)相手のひとりに、今個人的に注目している映画監督の西川美和さんがいたので手にとった本だが、西川美和監督も、鶴瓶師匠も、カリフォルニアの青いバカみうらじゅんも、宇多丸(師匠じゃない方)も、武本康弘(アニメーター)氏もよかった。その中でも白眉はケンコバだった。ほぼエロトークなのだが。
露悪的で、報われないことが大好きで、自分でも「なんのためにこんなことをしてんのかな」と思うことが多いと言うケンコバに対して、星野源は「でもその積み重ねでオーラが出てるんじゃないか。それを感じ取れるのは俺とか変態だけかもしれないけれど」と返す。
変態トーク内にたま~に混ぜ込まれた清廉さが麗しい雑談‥と最初は思ったが、読み進むと、変態ゆえの誠実さにたびたびグッときた。むしろ清廉さ満載のふたりなのである。今度、西川美和監督に、「ふたり」シリーズ第二弾として「清廉変態なふたり」というタイトルで映画にしてもらいたいくらいだ。
それにつけても星野源、こんなにエロを臆せず出しつつ、長らく全国区の人気者であり続けるってたいした野郎(野郎呼ばわり二回目)である。ラジオやタモリ倶楽部でもちゃんとエロを出しているもんなあ。
逃げ恥は特に心惹かれなかったが、ずいぶん前の朝ドラ「ゲゲゲの女房」と、木皿泉ドラマの「昨夜のカレー明日のパン」の彼はとてもよかった。
そして、彼の音楽。聴き込んだことはないけれど、今回のケンコバとの雑談で彼が「音楽をずっとやっていて、歌うようになってから今まで変にこだわってやっていたのをちょっとずつやめてきてるんですよ。これは自分の感覚では、悪い意味じゃなくて手を抜いているんです。でもそうすると聴く人が増えたんですね」と言っていて、妙に聴きたくなった。
これ、わかる。こだわりやルールを自分に課して表現活動をしているっていうのは当然といえば当然だが、こだわりって時に、自分も相手も息苦しくさせる上に、視野狭窄に陥りがち。
適度にテキトーな表現ってなんだか新鮮で、いいなあと思う。
若いときは、ストイックであればあるほど報われるべきだし、真剣にやらなければ到達できない場所があると思っていた。今だってそう思う部分はあるが、到達すべき場所が山のてっぺんである必要はないし、過程が楽しいことも、結果(あったとして)に加味されるべきだと思うようになった。
最後に、読んでいる最中はまったく知らなかったが、雑談相手として登場したアニメーターの武本康弘さんが、京都アニメーションの放火事件で亡くなったことを知る。
この本までは存じ上げない方だったが、最近、中学生に薦められて米澤穂信の小説『氷菓』を読んだところだったし(この作品のアニメ化の監督が武本さん)、この雑談で彼が、プロの声優でもない自分に声優のオファーが来ることに迷う星野源に対して「チャンスがあればどんどんやってみる方がいい。違う世界の人間だから、などと思わず素になって飛び込め。僕ももっとアニメをがんばる」と真摯に語っているのが心に響いたので、その人がもういないことに愕然としてしまう。
そんなわけで、雑談はすごい。すごくなくても楽しい。自分を知らない場所に連れて行ってくれるし、見知ったつもりの場所の違う面も見せてくれる。すぐに忘れるけど。
これ、ホントに本当に実感です。
by月亭つまみ