恋わずらいみたいになって、あのひとにメールを書いた。
みなさま、こんにちは。秋本番の週末、いかがお過ごしでしょうか。テレビでは紅葉の鮮やかな景色が画面を満たしておりますが、みなさまも紅葉狩りを楽しんでおられるころでしょうか。
紅葉。ああ紅葉。
春の花見と並び、シマ島に来たことで失ったもののひとつ、それは紅葉。
紅葉。ああ紅葉。
恋しすぎてうっかり山村紅葉を好きになるレベルで恋しい、それが紅葉。
みなさま、どうかわたしのかわりに麗しい紅葉の景色をコメント欄に投稿してくださいませ…。
わしのめしいた目の代わりに、よおく見ておくれ。
その者青き衣をまといて金色の野におりたつべしい〜〜
(ってババ様ネタ何回めかな…)
そんなこんなで色のない秋のシマ島ですが、紅葉がないぶん寒さはゆるめ。祭りのような夏の海水浴シーズンと厳しい冬のはざま、せめて食べ物だけはアゲアゲ!でいきたいハーベストくみこでございます。
でも生サンマは150円…(泣)
さて。
シマ島に越して2年目に突入し、新たなモヤモヤに悩まされ始めたところから前回のつづきです。
住み慣れた東京を離れてシマ島に行くと決めたとき、「もうライターの仕事はできないだろうな」と、ある程度の覚悟はしておりました。もちろん続けていくための努力はしたつもりですが、現実に東京のクライアントからは日に日に依頼が減っていき、内地で営業しても仕事はいっこうに増えませんでした。
それでもまだ気持ちに余裕があったのは、「内地がダメでも地元シマ島で仕事を探せばいい」という思いがあったからだと思います。というのも結婚前ひそかにシマ島の状況を調べていたのですが、島では数年前から都会からの移住者が古民家をリノベーションしてオーベルジュ(泊まれるレストラン)をオープンさせたり、地元の農家と組んでブランド野菜を開発するといった動きが活発になっていることを掴んでいたのです。
それはつまり「離島のムラ社会」という極端に閉鎖的なコミュニティに、新しい風が入っているという証。新しい風がおきているなら、わたしのような新参者でもワクワクできる何かがあるかもしれない。ライターの仕事も開拓できるかもしれない。ロハスやらヨガやらおしゃれスローライフやらに一切興味はありませんが、「シマ島に面白い動きがある」こと自体が希望となって、迷っていたわたしの背中を押してくれたのは事実です。
ところが。
わたしがシマ島に引っ越した途端に、オーベルジュがとつぜん閉業してしまったのです。シマ島オリジナル商品を開発して話題を呼んでいたチームも、どうやら活動を休止した模様。さらに自治体や商店、各方面で新しい動きを牽引していた人たちが、あらかた島を引き上げてしまったことが判明。島にはただ、祭りのあとのような気だるい空気だけが、ひと気のない集落に充満しているだけでありました。
人気すぎて予約できなかったほどの宿が、なぜやめてしまったのか。盛り上がっていると思われたシマ島にいったい、何がおこったのか。そこには不穏な何かがあるようで、薄暗闇にぽつんとひとり、途方に暮れてしまうのでありました。
一方。
シマ島で暮らすうちに、この島のひとたちが「清らかな海と穏やかな島ライフ」というパブリックイメージとは違う、なまぐさくて、クセしかなくて、面倒くさいけどなぜか惹かれてしまう強烈な個性の持ち主であることがわかってきました。これまで出会ったどんな国の、どんな町のひとにも似ていない、独特の文化とライフスタイル。でもなぜかそれはどの文献にも記されておらず、島の人々は自分たちのオリジナリティにまったく気づいていないようでした。
これはいけません。
目の前に手つかずのご馳走(ネタ)がゴーロゴロ落ちているのです。
ライターとして平常心でいられるほうがどうかしてますって!
あっちもご馳走、こっちもご馳走
一度ライターの血が騒ぎ出すと、「これを調べてみたい、あのひとの話が聞きたい」という思いが一日中頭を離れず、恋わずらいみたいに寝ても醒めてもそればかり。けれど、旅行者ならまだ思い切って取材に動けそうですが、新米島民であるわたしがへたに動けばザビ家に迷惑がかかるリスクがじゅうぶん考えられます。誰が味方か、誰が敵か、わからない状態で行動に移すわけにもいかずモヤモヤ倍増。
この島のことを深く知るには、どうすればいいんだろう。誰に相談すれば、目標にたどりつけるんだろう。悶々としながら2度目の春を過ごしていたある日、
「じじょくみさーん、こんなコラムが載っているよ。もう読んだ?」
このウェブマガジン「どうする?Over40」リーダーであるカリーナさんから、一通のメールが届いたのでした。
とあるウェブサイトに寄稿されていたそのコラムには、短い文章ながらシマ島に対する愛があふれていました。感情的になるでもなく、商売に徹するでもなく、シマ島の事情を知りながら、それでも人々が健やかに生きていくにはどんな道があるのか。静かな筆致で綴られたその文章を書いていたのは、私が「希望」としてとらえていた、あのオーベルジュのオーナーでありました。
「有名な方だから忙しいとは思うけど、このひとの考え方ってすごく面白いし、創造的。シマ島のこと、すごく大切に考えているみたいだし、ダメ元でコンタクトをとってみるのはどう? じじょくみさんという島民がいることを、伝えるだけでもいいんじゃないかな。自分がいまどう感じているのか、素直に書いて送ってみなよ」
そのオーナーのことは知っていましたが、相手は気鋭の起業家としてビジネス界では名の知れた社長でありました。わたしのような一介のライターを相手にしてくれるとは到底思えませんし、ましてや掲載先のない取材を受けてくれるなんて。いやーないない、まずないわ。
「インタビューを申し込むのでもいいんじゃないかな。聞きたいこと、You聞いちゃいなよ。メアド載ってるってことはメールしていいってことだから。いいから、はよ、はよ」
わたしの小心を知ってか知らずか、容赦なく背中を押してくるカリーナ女史。
うん、まあそうだよね、メール送るぐらいかまわないよね。返事なくて当然と思えば気も楽だし、カリーナさんがこれだけ押してくるんだからトライしたほうがよいかもしれない。そう思ったらいてもたってもいられなくなり、すぐにメールを書きました。
自分がどういった人間で、シマ島のいまをどう感じているのか。島になじみたい気持ちと、ライターとして活動したい気持ちのはざまで揺れ動いていること。こんなことをしたいけど、突破口が見えずに苦しんでいること。そして、なぜオーベルジュはとつぜん閉めてしまったのか、移住者はみな島を出ていったのか、その理由を率直に教えてほしいということ。何よりあなたにとってシマ島がどういう存在なのか、聞いてみたいということも。
正直なところ、返事がくるとは思えませんでした。でも、メールを書いたことで自分の考えがクリアになってちょっとスッキリ。うん、やっぱりわたし、この島のことを書いていきたい。そう思うなら、シマ島生活2年目はいっちょ本腰入れて動いてみるか。そのためにはまずザビ男に相談だな、などとつらつら考えていたら、
え、
「じじょうさま、ご連絡ありがとうございます。
ぜひ一度お話しできればと思います。
ご予定を教えてもらえますか」
え?
えっと、
ええええええ???((((;゚Д゚)))))))
なんとメールを書いた数時間後に、オーナーから返信が届いてしまったのです。そしてその1週間後にはご本人と面会することになったのだから、なにこれ人生こわすぎる…。
そんなこんなで怒涛の展開となったのですが、すいませんまた長くなってしまいましたのでこのへんで。そしてタイトルで色っぽい話を期待した方、すいません。紅葉のないシマ島だけに色気がないですねってことで、おあとがよろしいようで(オイ)
それではみなさま、次の日曜にまた崖のところでお待ちしております。
(つづく)
text by じじょうくみこ
illustrated by カピバラ舎
*「崖のところで待ってます。」セカンドシーズンは12月末までの毎週日曜更新です。
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2-1 ハーフセンチュリーは嵐の季節。
tomotan
たのしみ~!はよ、はよ(笑)
じじょうくみこ Post author
>>tomotanさま
コメントありがとうございます〜。
もう、よくばりさんなんだから!(違)
ひっぱってばかりですみませぬ。あと少しお待ちくださいませ〜m(_ _)m