ゾロメ日記㉚ 人生はリアルだ
◆11月27日 嘘くさくてリアル
津村記久子著『この世にたやすい仕事はない』を読む。津村さん真骨頂のお仕事小説。今回は、ちょっと不思議な5つのお仕事が登場する連作短編になっている。
14年間の専門職で疲弊し、職業安定所の相談員に「コラーゲンの抽出を見守るような仕事はありますか?」と口にする30代のヒロインが紹介される仕事は、どれもヒトクセありそうなものばかり。けれど妙に魅力的だ。おかきの袋にあれこれ文章を書く仕事や、地域循環バスの車内アナウンス広告の原稿作りなんて、かなりやってみたい。
この本を読んで、仕事に対する自分の考えが変わったとか、転職したくなったとか、逆に今の仕事をもっとがんばろうと思った・・ということは正直・・ない。でも、仕事も内包する生活全般の醍醐味は、瑣末さや細部の積み重ねに宿るよなあと思ったり、「仕事なんてなんだっていいじゃん」(「どうでもいい」ではない)と、人生の優先順位や重要度がいったんリセットされたような気がした。
あ、やっぱり、今の仕事もがんばろうと少し思ったかも。人々はマジメでユルくて、世界は狭くて拡がっていて、毎日は嘘くさくてリアルだ。そう思えるこの小説、すごく好きだ。
◆11月28日 雑然さがリアル
TBSの深夜枠の水ドラ!! 「おかしの家」を6話までまとめて見る。主役は、私の周囲で絶大なる人気を誇るオダギリジョー。
このドラマ、NHKBSで去年放送された「昨夜のカレー、明日のパン」と通じるモノが多々ある気がする。両者とも、日常の些事が思いのほか丹念に描かれている。そして主役もしばしば遠景になる。そしてそして、どちらの家も断捨離とは無縁の雑然さで、リアルである。
特にお勝手。台所でもキッチンでも厨房でもなく、お勝手という言葉が似合う雰囲気だ。食洗機はもちろん、電子レンジもなさそうなお勝手は昭和臭がぷんぷん。
古いもの=佳きもの と思うわけではないし、便利さに慣れきった今、昔に戻りたいとは思わないけれど、昭和っぽい「お勝手」の方が美味しいごはんが出てきそうな気がするのはなぜだろう。
そして、なんだかんだ言って、「おかしの家」は、主題歌を清志郎、おばあちゃん役を八千草薫、にした時点でこっちはもう全面降伏(?)なのである。八千草さんは昔・・たとえば「岸辺のアルバム」の頃から演技的にはなにひとつ変わっていない気がするのに、時間の方が彼女をどんどん童女にしているような感じがする。魔の刻の人?これってある意味、魔性の女ってことか。
ちなみに、このドラマには三毛猫が登場するが、名前は「みーちゃん」である。
◆12月1日 しくじった経緯がリアル
最近、仕事でしくじりが多い。提出書類の締切をすっかり忘れていたり、イレギュラーな事務用品の発注依頼の品番を間違えてたり。今日も今日とて、悲しいほどマヌケなミスをした。凹んだ。
この流れを「このところ心ここにあらずだった」で自分を丸め込むのはカンタンだが、そんなんじゃない。気が弛んでいただけだ。思い返せば、ちょっとした確認でミスは回避できた。でもしなかった。
ミスが回避できたはずの瞬間を何度も脳内でリプレイしている。それはとてもリアルな繰り返しだ。反省がリアルなのではなく、しくじった経緯がありありと甦る。うっかりまたやりそう。もしかして反省のしかたまで見失っているのか、私は。
◆12月2日 リアルに心に響く
吉野源三郎著『君たちはどう生きるか』を読む。
パート先の小学校の校長先生に薦められた本。そもそもは、世の中が相当きな臭かったであろう1937年に、著者が「子どもたちのために」と依頼され書いたという人生指南書である。
主人公「コペル君」は中学一年生。大きな銀行に勤めていたお父さんを亡くし、女中をふたりに減らして(!)のお母さんとの4人暮らし。コペル君には近くに住む若い叔父さんがいて、この叔父さんこそが、彼に「どう生きるか」を語りかける存在だ。
銀座の百貨店の屋上から地上を見下ろし「人間は分子」だと思い至ったり、友達を裏切ったと思い悩み、手紙を書くコペル君の瑞々しさったらない。文章も美しい。児童書の括りだが、今の自分が読んでもリアルに心に響く。そして、自分にとってのリアルさは、真剣さが醸し出す美しさを伴ってこそなのだと思った。
ってことは、しくじりの反省も美しくしないと!?
by 月亭つまみ
友人との掛け合いブログです。→→「チチカカ湖でひと泳ぎ」
サヴァラン
つまみさま
「この世にたやすい仕事はない」
最近、内職しごとをはじめ、
めちゃめちゃへこんでいるわたしにとって「リアル」です。
「君たちはどう生きるか」
これ、以前から気になって(ということは自分ではまだ読んでない)
たろうに買おうかどうしようか
でも、いまどきの中1ぼうず
このタイトルはけむたがってゼッタイ読まないだろと
「密林買い物かご」に入れっぱなしだったのですが。
おお、この内容はたろうにリアル!
(たろうの父親はバンカーでもお金持ちでもなく、山口に生きてますが(笑))
∴近日中にこの2冊。入手します。
「昨カレ明日パン」のお勝手、
めちゃめちゃいいですよね~
ステンレスのシンクに、浄水機能とかしゃらくさい機能のない蛇口の水が、
当たって、跳ね返って、反響する音がリアルでたまらん♡
つまみさんのおうちのお勝手もめちゃめちゃわたしの好み。
いただきますっ。ぱく。
つまみ Post author
サヴァランさん、こんにちは・・と書こうと思いましたが、もうとっぷり陽が暮れきっていました。
こんばんは!
「この世にたやすい仕事はない」は、出てくる仕事がこぞってワケアリなところと、仕事⇒たやすくない⇒辛い のベクトルでは必ずしもないところ、が魅力でした。
一口に仕事といっても、キツかったり怪しかったり楽しかったり謎だったりして、右往左往したり、自分もまんざらではないと思ったり、脳内で罵倒したりして、みんな生きているのですよねえ。
私もその一員なのだわ、と。
「君たちはどう生きるか」は、今の、妙に物分りのいい人ぶっている世の中(実際には全くそうじゃないのに)にとっては耳が痛い内容だと思うのですが、「ぶってる」最先端の人々は、自分に自覚がないのだろうから、痛くも痒くもないのだと思います。ふんっだ(`・ω・´)
確かに、けむたいかもなあ。
でも、たろうくんの感想が聞きたいです。
ああ、しゃらくさい機能のない蛇口の水が、当たって、跳ね返って・・って、なんてお勝手の魅力を的確に表現しているんだろうとうっとりしてしまいました。
うちのお勝手は、テーブルも棚の扉も床も、チープな化粧合板で、これぞ築30年強の木造モルタル家屋のお勝手!です。
いまどき、みかんの袋に石鹸ってありなの?みたいな。
でも、溶けなくていいんですよね(^_^;)