ゾロメ日記㊳ 人生は、あんな移住こんな移住そんな定住、だ
◆3月1日
数年前、家の近くのこぢんまりしたマンションの一室に新古書店ができた。幹線道路から一本入った人通りが少ない場所なので、開店時は「なんでこんなところに?」と思った。聞けば、知的障害者を対象とした東京都指定の就労継続支援事業所で、運営はNPO法人とのこと。
当初はあまり立ち寄っている人を目にしなかったが、だんだん、店頭の「3冊100円」と表示された文庫本のワゴンなどを物色している人を見かけるようになってきた。地域に根づいてきたのだとしたら、うれしい。
うちの夫はここで、前から欲しかった本を見つけ、もう1冊気になる本があったので「2冊でいいんですけど」と100円を出したところ、お店の人にすごく困った顔をされたので、とっさに目についた『数学がらくにわかる本』をとって、3冊にしたそうだ。
私は最近このお店で「天然生活」2016年1月号と、「大人のおしゃれ手帖」2016年2月号を各50円で購入し、蔵前の生活用品の店in-kyoの中川ちえさんが長谷川ちえさんになっていたことを知る。東京のin-kyoは2月末で閉店し、福島県三春町に移住し、新in-kyoをオープンするそうだ。
私は福島で生まれ育ったが、三春には小学生のときに一度行ったきりだ。父の車で行ったが、酔ってしまい、苦しかった車中の記憶しかない。三春といえば、昔はなんといっても三春駒だったが、最近は滝桜の方が有名な気がする。震災以降は特に。あれから5年、今年の3月11日も金曜日だ。
◆最近読んだ本
『那覇の市場で古本屋 ひょっこり始めた<ウララ>の日々』(宇田智子/著)
「宮崎美子のずすらん本屋堂」でこの著者のことを取り上げていて、興味を持った。
宇田さんは1980年生まれとのこと。番組を見て私が査定した年齢よりずっと若かった。老けて見えるというわけではない。どちらかというと童顔だと思うのだが、物腰や話し方の落ち着き感がハンパなかったので、てっきり40代だと思った。なんだか、こういう人にはかなわないなあと思う。どうかなわないのか、自分でもよくわからないのだけれど。
宇田さんは、大学卒業後ジュンク堂に就職し、2009年の那覇店開店の際、出張扱いを異動に変更してもらって、沖縄に移住してきたそうだ。そして、その2年後に退職して古本屋を始めた。
「実は沖縄に住んでみたことがあって」
そういう感じにはしたくなかった。(P45)
入社してからまもなく十年、店の広さに本の量、お客さまと従業員の数がどんどん手に余ってきた。なのに把握しているふりをして立ちまわることに疲れてしまった。仕事は楽しいのに、苦しい。(P51)
この理由、カッコよすぎる気がしなくもないが、いろいろな思いの結晶なのだろう。この本の筆致全般はかなり淡々としているので、心情吐露がことさら濃く際立って映るような気もする。
際立つといえば、那覇在住の詩人、花田英三さんに関するところと、元「たま」の石川浩司さんが、お店の前で自身の「ウララ」という曲を歌うくだりも印象的だ。筆致やカメラの前では隠れがちな著者のアツさや若さが漏れ出ていて、なぜかホッとする。
ちなみに、私もたまのファンだった。「ウララ」が入ったアルバム『ひるね』はずいぶん聴いた。 「海にうつる月」という曲は、聴くたびに泣きそうになった。理由はわからない。
ところで、ウララのご近所に桜坂劇場という映画館があるらしい。実はこの本で「桜坂劇場」という四字熟語を見たとき、「ん?この名前、知っているぞ!」と思った。沖縄には行ったことはない。テレビ?本?いや、もっと身近な誰かが個人的レベルで発信していた気がする。ああ、思い出せない。もやもやして読み続けた。
読了後、やっと思い出した。
Cometさんだ!ずいぶん前のメーリングリストで、年に何度か沖縄に行っていた頃があって、ここに惚れ込んで住みたいぐらいだった、と書いていた。
あースッキリした。
そして付け足し。
URARAといえば、私の高校時代の友人まりちゃんが福島県喜多方市でやっている甘味処「うらら」も外せない。地元にがっちり根ざしたまりちゃんは、お店を始めて20年以上になる。そしてここ数年、またお客さんが増えているという。すごいことだ。私も今の居住地で暮らして30余年になるが、根ざす何かがあるだろうか。
喜多方の「うらら」の前でも歌ってくれないかなあ、石川さん。
by月亭つまみ
まゆぽさんとの掛け合いブログです。→→「チチカカ湖でひと泳ぎ」
北西風
誰かが、一冊なら50円、二冊なら80円、と決めてあげたら、スムーズに回るようになるのかな?
と思いました。
素人考えでは、駄目でしょうかねえ。
つまみ Post author
北西風さん、コメントありがとうございます。
古本屋さんには古本屋さんの、しきたりというか、こだわりがあるのでしょうかね。
価格設定はシンプルでわかりやすい方がいいと思うものの、モノによっては、こちら(素人)があずかり知らぬラビリンスも面白いかも、と思ったりする自分もいます。