【月刊★切実本屋】VOL.24 読んでから見るか、見てから読むか
その昔、「読んでから見るか、見てから読むか」とい言葉が一世を風靡した。ある年代にとっては言わずもがな、角川映画第一作「犬神家の一族」のキャッチコピーである。
原作と映画をタイアップさせ双方の相乗効果を狙い、大量のCMを流し、画像や音楽を見る者の脳裏に焼きつけ、サブリミナル効果を発生させるかのような角川商法は、しばらく映画界と出版界(たぶん)を席巻し、当時の世相や時代の空気にすら影響を及ぼしたような気がする。若くて単純だった私ももちろんその例外ではなかった。
なんだかんだ言って、いくつもの角川映画を見たし、本の方も、横溝正史はほとんど読み、平井和正のケレン味いっぱいのアレや、栗本薫のジャズ小説や、大藪春彦のあんなもの(!)まで読んだ。角川映画だから、というわけでは全然ないのだけれど、いまだ、自分のマイベスト邦画は原田知世主演の「時をかける少女」だったりする。
あ、話が角川商法問題(問題なのか?)になっちゃったが、書きたかったのは「読んでから見るか、見てから読むか」についてである。
今まで、読んだ小説が、その後映画化されて、結果的に「読んでから見る」ことになるのはよくあったが、「見てから読む」ことはほとんどなかった気がする。
いくら、小説と映画は別物だとは言っても、映画で堪能したものをいまさら小説で読もうとは思ったことはあまりないし、逆に、つまらなかった映画を見た後、「原作は面白いのかも」になったこともない。
ところが、今回は、めずらしく、2013年にWOWOWで4回にわたって放送されたドラマ「パンとスープとネコ日和」の原作の方も読もうと思っちゃったのである。
このドラマ、ご存知の方も多いと思うが、乱暴な言い方をすると「かもめ食堂系」である。主演のアキコ役の小林聡美や、脇を固めるもたいまさこを筆頭に、「かもめ食堂」とそれ以降に制作された「めがね」「プール」「マザーウォーター」などと、キャストやスタッフがかなりカブる。フードスタイリストはもちろん飯島奈美さんだし、光石研、加瀬亮などの男性陣も、もはや常連と言っていい。
作品のトーンも似ている。大きな事件は起こらない。…いや、「パンとスープ…」ではしょっぱなにアキコの母が急死するのだから、これはまぎれもなく大きな事件なのだが、それをことさら叙情的には描かない。要するに、泣いたり喚いたりしないのだ。「かもめ食堂」もそうだった。
…なんか、好意的に書いていないかのようなこの文章だが、私、ドラマ「パンとスープ…」は大好きで、もう何回見たかわからない。特に、気持ちがささくれたり、トゲトゲしたり、やさぐれたり、刹那的になったとき(←全部同じ状態?)に見たくなる。そして、少し穏やかな気分になって「最悪な気分はずっと続くわけじゃない…ってことにしておこう」と思う。
まさに作品の醸し出す雰囲気の思うツボじゃないかと思ったりもする。もう全然若くないのに、角川商法にまんまと乗せられた単純な私は、今もご健在(!)なのである。
そして、あんまり繰り返し見たので、珍しく「原作はどうなんだろう。原作を読めば、ドラマにももっと楽しめるんじゃないか」という心持ちになって、群ようこさんの小説の方を読んでみた。
結論。群さんには申し訳ないが、ドラマの方がずっと良かった。もっと言えば、小説はイマイチだった。
実は「かもめ食堂」もこの順番だったのだが、同じく群ようこの「かもめ…」の原作の方には、サチエさんがどうしてフィンランドで食堂を始める軍資金があるのか、なども描かれていたので、原作を読むことによって、背景描写的には必要最小限だった映画「かもめ食堂」の、まるで美術館における音声ガイド(音声じゃないけど)っぽい楽しみ方もできた。
が、「パンとスープ…」の方は、原作がかなり俗っぽく、ドラマでは主題とも言える、商店街の先輩方(もたいまさこ、光石研、塩見三省)との交流が全く描かれず、それどころか、むしろ、商店街の人たちがアキコにとって世知辛い存在になっていること、急死した母親もドラマほど魅力的に書かれていないこと、その母親とアキコの父との関係も情報開示(?)が中途半端な気がすること、そしてアキコとネコの関係も、克明である分、ステレオタイプな感じがすること…などの理由で「ずいぶんドラマとは違う作品だな」と思った。
あらためて、この小説をこういうドラマに仕立て上げたスタッフに敬意を表したくなった、群ようこさんには悪いけど。ただ、アキコの食堂で働くしまちゃんは、小説の方もよかった。
…と、ここまで書いてきて、原作には『福も来た パンとスープとネコ日和』という続編があることを知る。ありゃりゃ。
もしかしたら、私の原作に対する不満は続編を読むことで解消される部分も多々あるのかもしれない。参ったなあ。でも、もう書いちゃったから、このまま載せよう。
そんなわけで、今回の本当のタイトルは「見てから読んで 読み足らなかったかもしれないことに 書いてから気づく」でした!
by月亭つまみ
まゆぽさんとの掛け合いブログです。→→「チチカカ湖でひと泳ぎ」
Jane
その昔、深夜に観た「かもめ食堂」、好きだったなあ… 深夜に一人でテレビを観る自由のあった昔とともに懐かしいです。
「時をかける少女」私も観ました。少女期から成年期への移行期に観た映画として、ある意味マイルストーンになった映画でした。
凜
こんばんは。
つまみさんとは逆に小説しか読んでません。
ドラマも見たい!!
住職のお兄さんと素敵な奥さんには身元を明かさないままだったような記憶があるのですがドラマでもそうなのでしょうか。なかなかあれは切なかった・・・。
お商売があまりにもうまくいきすぎるところはあまり現実味ないですけど、しまちゃんみたいな従業員がいたらいいですよね~
なんといってもアキコさん自身の聡明さが大きいですが。
あの淡々としつつすべてを受け止め呑み込む器量、見習いたいです。
つまみ Post author
Janeさん、こんにちは。
「マイルストーンになった映画」って言い方、かっこいい!今度、どこかでマネして使いたい!です。
「時かけ」がそういう存在の映画ってすごくわかる気がします。
ときめき、せつなさ、はかなさ、不安定さ、期待とあきらめ…全部入っていますよね。
深夜に一人で「かもめ食堂」を観る自由も、これまた気持ちの芯にビンビン来ます。
わかるわかる一辺倒でスミマセン。
つまみ Post author
凛さん、こんにちは。
そうでしたか。
凛さんは小説の方でそういう心持ちになったのですね。
確かに、食堂が上手く行き過ぎて、そこのところは絵空事っぽさも感じますが、そう!しまちゃんの存在が、なんかそういうふわふわ感を、地に足のついたリアリティにぐいと引き込んでくれる気がして、いいですよね。
凛さんがドラマを見てどんな感想を持つのか、教えていただきたいです。