【月刊★切実本屋】VOL.42 <極私的 ちょっとその展開、強引じゃね?大賞>
出遅れた年頭のごあいさつになりますが、本年もよろしくお願いいたします。
みなさま、不穏で不安な毎日をお過ごしのことと思います。どこでももれなく、そんな年明けなのではないでしょうか。
私の居住地域のように、みっちり人がいるエリアの状況は特に厳しいですが、それは可視化されやすかったりもします。でも、数字は低い所も、医療関係の有無やキャパ、交通機関、気候的なもの、などなどを加味すると、ちょっとした数の増加で一瞬にして世界が暗転するような恐怖があるとも思われ、要するに、どこで暮らしていても怖いわけで、日本のみならず全世界、そんな悪い冗談の渦中にいる感じです。
私はそもそもポジティブさに欠ける人間なので、「やれる範囲の対策はしっかりとって、なるべく明るく元気に暮らしましょう」‥なあんてことは、なかなか言えないし書く気になりません。自分は回避できる、私は罹患しないんじゃないか、などと、いわれのない確信も持てません。罹患したらしたでしょうがない、重症化しないように祈るし自分でも頑張る、という根性も持ち合わせていません。「ません」づくしの、いわば三重苦。
さらに言えば、自分の免疫力が高いなどと思ったことはないし、若くないし、持病もあるし、仕事場は密だったりするし、夫の仕事のクライアントも感染対策をとることが難しい方々。対策はそれなりにやっているつもりですが、感染力の高い変異種上陸!と言われた瞬間に、それまでの「今まで罹患しなかったのだから、自分の対策は基本、間違ってなかったんじゃないか」というちょっとした支えみたいなものは雲散霧消し、途方に暮れている今日この頃です。
今年最初の記事なのに、暗い内面の吐露ばかりじゃ読む方もたまんねーよ、とお思いの方も多いでしょうし、書いている自分ですらそう感じます。実は、書いているうちに、この状況の気持ちの転換方法、希望の灯、指針、などがうっかり見つかったりしないだろうかと思って始めたわけですが…残念ながら見つかりませんでした。なのでこのへんでやめます。
ただ、自分は、不安で怖いという感情だけでなく、腹を立ててもいる、ことにあらためて気がつきました。あらま、これが噂の「気づき」ってやつ?
怒りの対象はほぼ施政者。いろいろ怒ってますが、ここで事細かに紹介してもナンなので一個だけ言いたい。あ、やっぱり二個。
せめて相手に気持ちが伝わるよう努めながら会見しろ。
配るべき人にお金を配れ!
以上!
さて、前置きはこのくらいにして
2014年4月に<極私的 驚愕のラスト!小説大賞>
という記事を書きました。勝手に〇〇大賞を制定するのは私の趣味のようなものです。そして大賞に選んだのは、樋口有介の『月への梯子』でした。必ずしもメジャーな作品ではありませんが、今でも、まっとうで妥当で順当なセレクトだったと思っています(ナニサマ?)。
今回、久しぶりに極私的大賞を立ち上げてみようと思い立ちました。特に深い意味はありません。ヒマだったとか、ネタ不足、という理由も否めません。それで、付け焼き刃的に(そう言っちゃダメじゃん)制定したのが<極私的 ちょっとその展開、強引じゃね?大賞>です。
名称からして、熟考のかけらもないことが明らかですが、ミステリー系でもないのに展開が読めない小説は多々あります。その中から
① なにそれ?
② どーゆーこと?
③ なんかワクワクしてきた!
④ …えっ?…えっ!? 強引過ぎ!!
と気持ちが推移する小説を大賞を選びました。
ジャーン!!それは
『春、戻る』(瀬尾まいこ/著)です。
三十代なかば、和菓子屋の跡取り息子との結婚間近のさくらの前に、ある日突然、見知らぬ男性が登場します。彼は会うなり、「うわ。さくら、久しぶりじゃん。お兄ちゃんだよ、お兄ちゃん」と言いますが、さくらには見覚えは全くありません。しかも、彼はどう見ても20代前半。
① ②の感情が一気に発動しました。これって、SF?夢落ち?と。
しかも、なぜかこの「お兄ちゃん」は、さくらの周囲に違和感なく(あるけど)溶け込んで、さくら自身も徐々に受け入れていくようになるのです。そのあたりからこちらも③の気持ちへ。ハートウォーミングな小説の手練れ瀬尾まいこさんの面目躍如!
でも、だからこそ、いったいこの真相はなんだ?!と思い、先が気になってたまりませんでした。
そして真相。④でした。
なんだか、悪気はないし、むしろ性格のいい人にニコニコしながらとんでもないことを聞かされた気分の読後感。悪くはないです。リアリティに欠けるだけで。
今年も【月刊★切実本屋】は、本の感想を主に、あることないこと(ないこと?)をダラダラと書いていこうと思います。よろしくお願いします。そして、とにかくみなさま、くれぐれもご無事で。私も。
by月亭つまみ