【月刊★切実本屋】VOL.52 ノープランからのブックトーク台本作成
社内研修で、中学校勤務の同僚(勤務先は違うので正確に言うと同僚じゃない)の奮闘ぶりを垣間見た私は、触発されたらしく、翌日の出勤中学校で国語科の先生にありもしないやる気をチラ見せてしまい、年明けにブックトークをやることになってしまった。
「やることになってしまった」って、自分で言い出したんだろうって話だが、なりゆきというか流れでそうなったのだ。自分の人生での「なりゆきで」「流れで」の多さたるや!明確なビジョンを持って自分の意志で行動したことなんて、ほぼない気がする。
でもまあ、しょうがない。決まった以上やるしかないのだが、問題は「お題」である。先生ったら、テーマを指定してくれればいいのに「好きなテーマでのびのびやってください!お任せします!」だって。わかっとらんな。この私はシバリがある方がラクなんだよね。…わかるわけないか。
そんなわけで、まだ何も浮かんでいないので、この記事を書きながら考えることにした。もし、書いている最中に脳内豆電球がパッと点灯して、あることないこと(ないこと?)が出てきたらめっけもの。ブックトークのテーマは決まるし、記事も書ける。一石二鳥ではないか。
しばし沈思黙考。
そうだなあ。ここはひとつ、ミカスさんとカリーナさんと3人で勝手にやっているPodcast番組【That’s Dance!】の会話を思い起こしてみよう。
この番組、ある程度の聴きやすさ(「クオリティ」とはおこがましくて言えない)で続いているのは、ミカスさんのよどみない滑舌と進行によるところが大きいと常々思っているのだが、驚いたのは、ミカスさんは人前で話すのが平気らしいこと。
信じられん!それを回避する人生を長年送ってきた身としては、「すげえなミカス。どっか麻痺してんじゃないの?」とやっかみそうになる。しかし今回はやっかみフィールドの記事じゃないので自粛。
…あ、「人前で話すこと」もしくは「スピーチ」がテーマのブックトーク、なんてのはどうだろう。
であれば、最初の1冊は、これまた最近の【That’s Dance!】に登場した『しゃべれどもしゃべれども』(佐藤多佳子/著)に決まりではないか。
かなりくすぶっている二つ目の落語家が、ひょんなことから話し方教室の講師になる。生徒は、吃音気味だったり、いじめられていたり、アガり症だったりして、コミュニケーションや話すことに苦手意識がある、年齢も職業もバラバラな4人。落語家は、彼らに落語を教えるわけだが、もともとは落語に興味などない4人はすんなり覚えられるわけもなく、頑固で短気な落語家はそれに苛立ち…と話は進んでいくのだ(たぶん)。
発売されてから四半世紀近く経つが、この物語の「絶対的な読後感のよさ」は覚えている。
みっともなくても、うだつが上がらなくても、欠点だらけでも、それが人間としてのみっともなさや欠点ではないという、なんか禅問答的だが揺るぎない真理が金字塔のように屹立している感じ。こういう小説は、もしかしたら中高年にこそ「響く」のかもしれないが、自意識がインフレを起こしているようなすべての年代(もちろん中学生にも)届けばいいなあと思う。
吃音といえば、昔、夫の職場にいたキダさんはかなりの吃音だった。でもネガティブさが皆無で、ぐいぐい話す人だった。
千葉の外房に住むキダさんの家に、私も一緒に泊りがけで遊びに行ったことがあるのだが、家族に会って腑に落ちた。奥さんと娘のセイコちゃん(キダ夫は松田聖子好きだった)が本当に素敵だったのだ。ことに、ナースをしていた奥さんは、明るさと反応のよさと善良さとシニカルさが絶妙にブレンドされていて、かっこよかった。
まだ若かった自分は今以上に吃音の知識はなかったが「もしかしたらキダさんは少年時代、吃音でツライこともあったかもしれないが、それをなぎ倒すパワーがあったにちがいない。または、出会うべくして出会った人が今のキダさんを作ったのかも」などと自分内で咀嚼した。言葉にするとうさんくさいが、要するにちょっと感動したのだった。
ということで、吃音を持つ主人公の本を紹介するとしたら『僕は上手にしゃべれない』(椎野直弥/著)か『ペーパーボーイ』(ヴィンス・ヴォーター/著)だろうか。
この二作はどちらも、吃音を持つ著者が書いているので、ひりひりするようなリアリティがある。最初に発する音によっては、まったく言葉が続かなかったり、逆にその後もすんなり話せたりすること、話し出すタイミングがことのほかデリケートだったりすること、などの記述がどちらにもあった気がする。そして、新しい扉の存在も。前者は放送部入部、後者は新聞配達が、今までの閉塞感ベースとは違う世界に主人公をいざなうのだ。
と、ここらあたりでそろそろ聞き手に飽きられるかも。内容に、というより、本について直球で説明するという行為に。なのでここいらで、「ところでみなさん、現在のアメリカの大統領が誰か知ってますか?」と言ってみるのはどうだろう。
愚問?
じゃあ、前の大統領は?
常識?
じゃじゃあ、その前は?
そう。到達したかった固有名詞はバラク・オバマだ。
どの中学にも、オバマ第44代アメリカ合衆国大統領の伝記はある…だろう。そしてそこには、彼がスピーチの名手だったことも記されているだろう。どんなスピーチが人の心を掴むのか。なにをどう話せば伝わりやすいのか。…そういう、ちょっと専門的な本をセットで紹介してもいいかもしれない。最後に引き出したいのは「スピーチライター」だ。
この職業を知りたかったら読んでみない?と取り出す本は『本日は、お日柄もよく』(原田マハ/著)である。
原田マハさんには政治がらみの小説がいくつかあって、これもそのひとつだ。政治を扱った小説は展開や最後が予定調和になりがちだと個人的には思うのだが、スピーチライターという聞きなれない職業のことと、「大勢の前で、自分の話したい内容が伝わるように話す」テキストとしてはなかなかだと思う。
締めは、この本のちょっと感動的な一説を読んでみる…とか。
以上、ブックトークのシナリオ案&切実本屋の記事でした。
ことほどさように、心が汚れた大人は、手近なところでテキトーに本をみつくろって、もったいぶった紹介なんてしたりするわけです。
子どもたちよ、大人は疑ってかかれ(それが結論か!?)
by月亭つまみ
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