◆◇やっかみかもしれませんが…◆◇ 第70回 沁みるドラマと読んでる本に触発されて
NHKBSドラマ「団地のふたり」を楽しく見ている。もはや盟友感のある小泉今日子と小林聡美がダブル主演という、世代にとってはたまらないキャスティングである。
同じ団地に住む幼稚園の頃からの幼なじみのノエチ(小泉今日子)となっちゃん(小林聡美)は、高校からは別々の道を歩み団地も離れ、恋愛したり結婚したりするも、いろいろあって、50代の今はふたりともシングルで、またこどもの頃と同じ団地で暮らしているという設定である。藤野千夜の原作がおもしろいらしいが未読だ。
勉強がよくできたノエチは、大学で非常勤講師として日本文学を教えている。教授や常勤の教員ではなく非常勤講師なのは何か事情があるらしいのだが、ドラマでは、なっちゃんのナレーションでその事情が理不尽であることを仄めかしているものの、はっきりとは明かしていない。今後、明かされるのかどうかもわからない。でも、10月13日放送の第7回の最後の方で、初めてノエチはそのあたりに関しての本音を口にするのだ。
暗い表情で仕事に向かおうとするノエチに、なっちゃんが「カバンが重いから大学に行きたくないんじゃない?」と軽口をたたく。それに対してノエチは言う。「仕事自体はイヤじゃないんだよね。学生に勉強を教えるのは嫌いじゃないし‥」。「じゃあなんで行きたくないの?どうしていつもへこんでるの?」と問うなっちゃん。それで覚悟を決めたのか、ノエチは薄く笑いながらも真摯に話し始める。
「なんかさ、非常勤講師って透明人間みたいなんだよね。大学内の学閥とか出世争いとか関係ないしさ、ま、それは気楽でいいけど、存在自体が認められていない感じ。居ても居なくても同じっていうかさ。あなたの代わりはいくらでもいますからねー期限が来たら辞めてくださいねーってそんな感じなの。それがときどき、虚しいの」
沁みた。よけいな合いの手もよけいな表情も入れずに聞くなっちゃんもよかった。いいドラマだな、これ、と、もう何度目かだったが、思った。
ノエチのその気持ち、わかる。三十代以降、わたしもずっと非正規だからさ。アルバイトから社会保険ありの職員(非正規だけど)に昇格したのに、雇用制度の変更で三か月で「またアルバイトに戻ってもらえる?」と言われたこともある。アッタマきて辞めたけど。
わたしが三十代の頃はまだ、専門職以外は、30過ぎや既婚ってことで応募資格すらないに等しいところも多くて、そうなるとこっちも卑屈になって、非正規でも採用してくれるだけでありがたい、みたいな気持ちになった。ま、こっちも「こどもを持つこと」を諦めてはいなかった時期なので、仕事に関しての中途半端なスタンスがバレていたのかもしれないけど。
それはそれとして、当時の会社には、同じ事務職でも正社員、非正規社員(契約社員とか定時社員とか名称はそれぞれ。定時社員ってなんだよ)、パート、派遣などが同じフロアに混在していて、同じ制服を着ているのでハタから見ると…いや、社内の人も、当事者以外はその区別がついていないようなところもけっこうあった。今はどうなんだろ。制服なんてもうないのかな。知らんけど。
正社員の中には、「契約社員のくせに(なまいき)」「パートの分際で(ずうずうしい)」「派遣さんだから(よそ者)」みたいな気持ちが漏れ出ているひともめずらしくなかった。そういう空気は、ノエチ同様、存在自体がちゃんと認められていないような気持ちにつながる。わたしもときどき虚しかった。
自分で起こす風でそれを払拭したかったのか、経験した複数の非正規の会社で、私はほぼ「パート(契約社員)のくせに態度がデカい」と言われていた。どーせ、代わりなんていくらでもいるんでしょ、と開き直っていたのかも。
40代前半のときに4年半在籍したわりと大きめの会社では、職場の男性社員に悪意あるあだ名をつけまくり、会社公認のテニスサークルの黒幕になり、そのへんのひとから「最強のパート」と言われていた。言われる理由に仕事の要素が皆無。はい、揶揄ですね。
四十代なかばで本格的に公共図書館で働くようになって、最初はオープン間近の図書館に配属されて開館準備にてんてこ舞いし、その次は、別のオープン9か月前の図書館の準備室に異動になり、ほぼなにもかもをイチから、本はもちろん、図書館のコンセプトや本棚や閲覧席の色や材質や館内の配置や絨毯やイベントなんかも、自分と同じ立場の同僚(はらぷ含む)と決める仕事を任された。大変だったが、楽しかったし、貴重で人生最高の経験だった。けれど、不安定な非正規であることには変わりなくて、その証拠に、オープンして2年半でその図書館は民営化されたので「はい、ご苦労さん」と抛り出された。
もうこの年齢になると、これから正規雇用で働きたいなどとはツユほども思ってないし、そもそも非正規すら定年まで続けられるかどうかもわからないわけだけれど、だからといって、もう自分のことじゃないんだからいいや、は違うなと、なぜか最近どんどん思い始めている。
たとえば、ですよ。ある会社で働いているとして、そこにひとりでも正社員がいるのであれば、働き始めはたとえ非正規であっても、非正規から正社員登用への道がまったくないところはダメな会社だと思う。そのための試験が難しくてもいい。正社員になれば、給料もボーナスも、その他の福利厚生も格段に上がるのだとしたら、門戸が狭くなるのはしょうがない。でも、狭くても門戸はつくれ。
うちは新卒しか正社員にしないだとー!?バッカじゃないの!門戸の有無は会社の勝手でしょって?‥確かにそう。でもそんなあなたはクソでそんなあなたの未来は暗い。ユーアーブラック!
‥ああ、今、久しぶりに栗原康さんの本を読んでいるので、なんかうれしくて文章がどんどん煽情的になって、漢字…いや、かんじをきょくりょくつかわなかったり、ぶんしょうのさいごにすてぜりふをいれたくなってますが‥とにかく、そんなふうにおもってる。
雇用の安定は心の安定!あんてー、サイコー!
by月亭つまみ