ゾロメ日記㉕ 人生は、読んだり見たりしていろいろ腑に落ちる毎日だ
◆10月某日 注目すべきジャンル
中島京子著『長いお別れ』を読む。この小説は、認知症をアメリカで「ロンググッドバイ」と呼ぶことがタイトルの由来になっている介護小説だ。
なにげなく今「介護小説」と書いたけれど、このジャンル、誰かが正式に立ち上げているのか、斎藤美奈子さんとか。・・ま、それはさておき、ここ数年で読んだ、水村美苗著『新聞小説 母の遺産』も、平安寿子著『神様のすること』も、とても印象的だった。なので、個人的には「今、介護小説に注目すべし」なのである。
この『長いお別れ』もよかった。壮絶さを壮絶に描かない筆致が新鮮で、このジャンルの成熟を感じた。もちろん、介護そのものは成熟などという言葉とはそぐわない現実の連続だし、この小説を読んだからといって、明日からの自分の「介助」生活になにか具体的な希望の光を見出したわけじゃない。ただ、苛酷さと平穏さ、拒否と受容、閉塞感と開放感、は本人や家族の中で案外ふつうに共存することが、自然な感じで腑に落ちて、ちょっと肩が軽くなった。
◆10月某日 いつも~優しい~微笑みを~をを~ををを~♪
BS12で始まった「ありがとう 看護婦編」を少しまとめて見る。
セリフ量に圧倒されてクラクラした。「脚本は橋田壽賀子!?」かと思いきや平岩弓枝だ。20代の頃、時代小説家として華々しく活躍するこの名前を見て、「どっかで見たことが・・」と思ったが、「ありがとう」のクレジットだったのだと今になって腑に落ちた。
リアルタイムで夢中になって見ていたドラマだが、今見ると笑ってしまうことも多い。
なんと、このドラマはミュージカル仕立てなのであった!夢見がちな場面でもないのに、なんの脈絡もなく急に歌い出す。けっこう頻繁に。当時は特に違和感なく見ていた自分に違和感。
しかも、水前寺清子や佐良直美だけならまだしも、歌うイメージ皆無の大空眞弓まで歌うのだ。どさくさに紛れてやり放題だな、と思ったが、ググったところ、大空眞弓さんは音大の声楽科出身であった。血が騒いたのかな。
それにしても、山岡久乃も乙羽信子も児玉清ももうこの世にはいないのだ。動く昭和博物館のようなドラマだけに、昭和は遠くなりにけり感もひとしおだ。
◆10月某日 グレン・グールドがドンピシャ
CSで『そして父になる』を見る。
力の抜けた演技が真骨頂のリリー・フランキーも含め、俳優陣が緊張感に満ちた演技をしているなあと思う。ただ、いくら取り違えが発覚したからといって「6年間、実の子と信じ育てた子どもを交換しようとする」ことに、「迷うこと自体」に、自分はどうしてもリアリティが感じられなかった。
そういえば、かの百恵ちゃんの「赤い運命」も取り違えの話だったっけ。でもこのドラマの印象は希薄だ・・と思ったら、相手役が三浦友和じゃなかったから他の「赤いシリーズ」ほど真剣に見ていなかったのだと腑に落ちる。おそるべし、ゴールデンコンビの威力!
◆10月某日 劇場型?
リュドミラ・ウリツカヤ著『女が嘘をつくとき』を読む。
友達が絶賛していた同じ著者の『子供時代』も良かったけれど(插画とのコラボが印象的)、私はこの『女が嘘をつくとき』にKOされた。
1970年代から20年間のソ連(ロシア)が舞台の6編。通しでの狂言回し的役割は、善良で知性はあるが、それを前面に出すことなく、どちらかというと「受けの人」ジェーニャ。
そして6編それぞれで、いろいろな女がいろいろな嘘をつく。
他の欧米や東欧諸国とはどこか違うソ連のヒリっとする独特の雰囲気、表裏一体のドラマティックと凡庸さ。そこに平常心やデコラティブさを盛ろうとでもするかのような嘘、嘘、嘘。
人はどうして嘘をつくのだろう。保身、見栄、妄想、場の賑やかし、願望・・。そして、この本の帯の「女たちの他愛のない嘘は、不幸を乗り越えて生きる術だとしたら。」という理由。「術」という一文字が妙に腑に落ちた。
そういえば自分も、若い頃、「父親は服役中」という意味のない嘘をついたことがあった。あれはなんだったのだろう。劇場型か。
by 月亭つまみ
友人との掛け合いブログです。→→「チチカカ湖でひと泳ぎ」