◆◇やっかみかもしれませんが…◆◇ 第42回 やっかんでもぜんぜん大丈夫ですよ
好きなテレビ番組は、温故知新…というより温故知故の「クイズ脳ベルSHOW」と、昭和の中学校を舞台にした「おいしい給食」。聴いている曲はいまだにブルーハーツとかユーミンとかか、古い洋楽ばかり。今世紀ものはLOVE PSYCHEDELICOだけかもしれない。youtubeでは1990年代に放送されていた「カルトQ」を真剣に見ていて、一問当たったぞと大騒ぎし、チラ見した1970年代放送の「前略おふくろ様」でショーケンの母親を演じている田中絹代に涙が止まらない。
それにしても、「前略おふくろ様」の絹代は反則だ。年老いた親に対する、冷静でまっとうな分析や現状に対しての理性的判断など根こそぎ駆逐するせつなさ。今、介護の入口にいる人は見ない方がいい!とさえ思う。
って、私はいったいいつの時代を生きているのだろう。いくらなんでも時空がおかし過ぎないか。そういえば最近、誰かに「あえていまどきを拒否しているの?」的なことを言われた気がするな。
拒否していません。自分がセレクトするものの優先順位の上位にどうしても上がってこないだけ。
学校司書という仕事柄、若い人(若すぎる傾向にあるが)と話す機会はある。彼らから自然に漏れ出る「情報」、特に本に関してのそれは享受することも多く、おおっ!こんな逸品を教えてくれてありがとー!となることも少なくない。
でも、だからといって「じゃあ、音楽やドラマや映画も…」とはなかなかならない。なぜだろう。それより、安心して浸ることができるとわかっている作品の方についつい向かってしまう。安心だからだ(二回言った)。これこそが老化なんだろうか(シャレじゃない)。
安心といえば(三回め)、「クイズ脳ベルSHOW」は、over中年がなんの緊張感も抱かず視聴できる安心ワールドと思われがちだが、そんなことはないのである。けっこうスリリングな場面も多い。
なぜなら
①テレビ慣れしていない、知る人ぞ知る出演者はテレビのお約束に疎い
②テレビではおなじみでも、そこに「かつて」という前置詞(?)が付く人は、久しぶりのテレビ出演にやたら力が入っていたり、テレビ的立ち振る舞いがアップデートされていなかったりする
③加齢によって、視聴者にリアルな心配をさせる
からだ。
最近、①で印象的だったのは松本海希(みき)さんという女優。御年63歳。数々の、本当にあまたの出演作があるらしい。
ねえ、名前までは知らなかったでしょう。この方、なんでもドラマ「相棒」で8人ほど殺したらしいし、田村正和との共演も複数回あるとのこと。司会の岡田さんが田村エピソードを所望すると、「殿がいるとラクでした」という意外な答え。理由は「殿が座るところが自動的に上手(かみて)になるから、下々が自分の場所について迷う必要がなかった」と。ふつうの芸能人からこういう逸話はなかなか聞き出せないだろうと思った。
松本海希さんは頭の回転が早く、それはクイズの回答でも明らかだったが、ニコニコ笑って「誰?このオバサン、ですよねー」「30歳からオバサン一筋です」などのコメントに、ことさら自虐感や痛々しさはなく、かといってリアクションは溌剌として心地よくて素敵だった。見る側を明るい気持ちにさせてくれたのだ。いとうあさこのかつての芸とは年季が違うというか、さわやかだった。視聴後、Twitterで松本海希を検索したら、そう感じている人が多数いて、やっぱりな、と思った。
上述の②や③は珍しくもないので例をあげないけれど(先日、That’s Dance!で水沢アキについては言ったし)、脳ベルSHOWを見ていると、トシを重ねることを希望に変換する手がかりが見えそうになることが多い。
それは、言葉にしてしまうと凡庸な「いつまでも自分を閉じない」みたいな方向に集約されてしまうのかもしれないが、番組で具体例を見せてもらうと、またちょっと違う。机上の空論ではなくなるというか、やりくちは無尽蔵にあって、たとえ迂回してもいいやと気が楽になるというか。
そして、幾度も言及するが、この番組の岡田圭右はすごい。他番組の彼では気づけないすごさだ。
たぶん事前に出演者ひとりひとりに「なんとお呼びしますか」と聞いて呼称を決めているのだろうが(演芸関係の高齢者はたいてい「師匠」と呼ばれる)、松本海希さんのことは「みきさん」と呼び、司会者側からは一度もオバサン扱いしなかった。
同じ週に出た夏樹陽子さん(上述の②の要素高し)に対しては、最初は「ようこさん」と呼んでいたのが、彼女の女王様気質(明らかに扱いに物足りなさを感じているのがこっちにもわかった)を見て取るや、彼女が「日本クレー射撃協会」の女性理事という稀有な立場にあることを紹介したことを踏まえ、呼び方を途中からさりげなく「理事」に変えた。
最初は、その呼称に戸惑っているような夏樹理事だったが、そこは元来の権威好き(知らんけど)、徐々に「理事」と呼ばれることに気持ちよく馴染んでいくのが垣間見えて、とてもおもしろかった。
シュッとした見た目もあってか、岡田さんに名前で呼ばれることを喜ぶ女性は多く、その証拠に、番組中に「私のことも名前で呼んでください」と訴えた人もいたっけ。それをジェンダーとかフェミニズム方面に引っ張らないのも(たぶん)、彼のあっけらかん、かつ上品な持ち味が理由なのだと思う。
ふう~。
各方面から「また脳ベルSHOWをアツく語ってるよ」と呆れられることを覚悟して、でも書いたぞ。狭い世界で生きてるよねと思えばいいさ。実際そうだしね。
ちなみに、番組内でテンパった出演者に岡田さんが言う口癖が「ぜんぜん大丈夫ですよ」なのだが、それをマネしていたら、多少しくじっても大丈夫な気がすることが増えた。単純か!
そんな私に、みなさん、やっかんでもぜんぜん大丈夫ですよ。
by月亭つまみ