11月21日はカレー記念日

カレー記念日

普段着と 仕事着 それしか ありません

11月21日はカレー記念日

月亭つまみ

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カレー記念日とは?

加齢を実感したら、それはカレー記念日。
抗ったり笑い飛ばしたりしながら、毎日華麗に加齢していきましょう。

あなたのカレー記念日も、教えてください。
五七五七七形式で、下の句は「○月○日はカレー記念日」なので
上の句の五七五だけ送ってね!

日付は掲載日に変えさせていただきます。

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ゾロメ女の逆襲

【月刊★切実本屋】VOL.68 第三グループ別格の変人

書く小説はおもしろいのに、そのエッセイにはあまりそそられないなあと思う小説家は案外多い。辻村深月とか宮部みゆきとか(名前出すな)。

サービス精神が旺盛で、細部まで目配り気配りが行き届き、行動や言葉や心理に説得力がある小説は、たとえダークな展開でも読んでいてどこか心地よい。賢くて誠実な人の脳内に安心してお邪魔しているような気持ちになるからかもしれない。

でも、小説以外の文章にそれらが発動され過ぎると、違和感、意外性、引っかかりがなさ過ぎて物足りない。いい人なんだけど好きになれないの、ゴメンね、みたいな。わりと同じ本を何度も読む方だが、そのラインナップに小説家の書いたエッセイはほとんどない。

それに比べて、音楽や美術や芸能関係者の書くエッセイは再読しがちだ。もはや本業はどっち?の手練れが多いが、山下洋輔さくらももこナンシー関清水ミチコ片桐はいり西川美和星野源若林正恭…諸氏の文章のおもしろさよ。粒ぞろいで、一粒で何度もおいしい。

文章以外の自己表現方法を知っている人が紡ぎ出す文章には、文章以上のものが乗っかるのかもしれない。経験値というか精神的支柱を持っていることが、その人の文章を自由にし、粒立たせるような気もする。

小説家でも芸術関係でもないプロの書き手、という第三のグループも存在する。小説以外の文章を生業としている人。そのなかでは、歌人の穂村弘と翻訳家の岸本佐知子の書くエッセイがわたしにとっては別格な存在だ。久々に読んだ岸本さんの『死ぬまでに行きたい海』は期待以上だった。

あとがきによれば、この本のテーマは「どこかに出かけて見聞きしたままを書く」だが、それでイメージされるようなふんわり感は微塵もない。どこまでが現実でどこからが妄想なのか、その境目が定かではない世界が次々に登場し、幻惑され頭がくらくらしてくる。

その中の一編「海芝浦」は、岸本さんが20年間行きたいと思い続けていた鶴見線支線の海芝浦に行く話だ。願いが叶ったわけだが、後日談が話の本筋で、岸本ワールドの真骨頂である。

行ってきてから彼女は妙なことに気づく。行ったはずの海芝浦に自分はまだ行けていない。20年来の空想が今なお膨張し続けて、現実の海芝浦と空想の海芝浦が頭の中で混在し続け悶々とする。しかも、本当の海芝浦はまた別にあるという感覚が拭えない。

そんなわけで、彼女はもう一度海芝浦に行く。そして半年ぶりに乗り換え駅「浅野」に降り立ち、わずかな期間に廃駅っぽさが増したと感じる。他にも、人類はすでに滅亡してしまった気分に襲われたり、生ぬるい風に吹かれ、生きていることを実感したり、自分が子どもの頃の高度成長期を思ったりもしながら、彼女は海芝浦駅にふたたび降り立つ。そして思う。

これで自分はやっと海芝浦に来たのだろうか、わからない、家に帰っても海芝浦は私を待っているのかもしれない、来れば来た数だけ海芝浦は増えているのかもしれない、自分もたくさんの自分に分裂してどれが本当の自分だかわからなくなるかもしれない、どの自分も本当ではないのかもしれない…

この感じ、ちょっと知っている。自分もこういうつかみどころのない世界を内包し生きていて、ふだんは仕舞い込んでいる。でも、在ることが大事だ。そして、この不確かで逃げ水のような非常識な感覚こそ、脳内が自由であることの証なのだと思っている。

「海芝浦」を読むことでそれが確認でき、不穏さを感じながらも少しうれしかった。

数年前、岸本佐知子さんのトークイベントに行き、最前列で観覧した。岸本さんは写真以上に楚々とした上品系の美人で(描写がベタだ)、話も、てっぱんの「ダメ過ぎる会社員で、それが翻訳の学校に行くきっかけだった」を含めどれも楽しく、そこに狂気の片鱗すら感じなかった。それでますます彼女のファンになった気がする。

日常に秘められた妄想やちょっとした狂気こそ、その人の魅力かもしれない。まっとうに見える人がまっとうなことを書くことより、破天荒キャラが脳内妄想を爆発させることより、破天荒キャラがまっとうなことを書くことより、まっとうに見える人が日常の延長の魔界を見せてくれる方がワクワクする。

そう。岸本佐知子さんのエッセイの魅力は「日常と地続きの狂気」だ。ありていに言えば、岸本佐知子は変人なのだ。自分と同世代が堂々とそれを開示してくれることが心強い。現実に翻弄されても、現実だけを生きてるんじゃねーぞと思うことは、自分の居場所を増やすことのような気がするから。

隠れる場所、逃げ場所は多いに越したことがない、そう心から思う今日この頃だ。

by月亭つまみ


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コメント、ありがとー!

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    アメちゃん

    つまみさん、こんにちわ。
    向田邦子さんも元々は脚本家ですよね?
    でもエッセイは上質でいいですね。
    「ゆでたまご」ってタイトルだったと思うんですけど
    昔、会社時代に仕事中こっそり読んで号泣して
    感動したのでコピー取って経理の女性の机に置いてたら
    「こんなん置くなー」って私のデスクまで泣きながらやって来ましたよ(笑)

    私は女優の壇ふみさんのエッセイが好きです。
    自分で自分のことを笑うセンスの良さっていうんですかね。
    読んでていつも、あのおっとりとした日本美人の女優が
    目をパチクリして失敗したりドジしたりするのが
    目に浮かびます。
    面白く自分自身を笑うのに、文章が下品じゃないところも好きです。

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    つまみ Post author

    アメちゃんさん、こんにちは。
    壊れかけたパソコンからコメントを入れさせていただきます(どうでもいいわっ、ですね)。

    「ゆでたまご」、さきほど読み返しました。
    さすがですね。
    ゆでたまごの温かさがこんなに悲しくてせつないものなのかと思いました。
    運動会のゴールの、校長先生の姿勢も目に浮かびます。
    視界に入ることと見ることは違うし、見ることと見つめることも違う、見つめることと書くことももちろん違っていて、その何段階もの過程を経ることって「本当に核に値すること」なのだなあと、わかったようなわかってないような感慨をもちました。

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